茂木 僕の視点から見ると、藤井さんについては、AIアラインメントの最先端だと考えられるんですね。AIアラインメントというのは、人間と人工知能をどう調整するかという研究分野で、今すごく注目されています。

 人工知能が出て来たとき、人間にはふたつの道があるんです。ひとつは徹底的にAIに頼ってサボる。たとえば作家だったらチャットGPTに物語を書かせるという道です。

 もうひとつの道は、AIを使って自分の脳を鍛える、AIをトレーニングパートナーとするようなやり方です。作家だったらチャットGPTが決して書けないような物語を書くことによって、自分自身が進化していくという道です。

加藤 そうなんですね。

茂木 藤井さんは、おそらく史上初めて、将棋の研究に将棋ソフトを徹底的に使って成功した人だと思うんです。コンピューターの性能を上げるためにPCの計算環境にものすごく投資した。羽生さんは、意外とそこは淡泊のような気がします。普通のソフトでいいやみたいな。

 だからAIと人間の関係を考えたとき、藤井聡太という人は、最先端のところにいると言えます。AIでサボれると思っている人たちには、AIで自分の能力を高める道もあるんだよ、と言いたいですね。