僕は77歳で現役を引退しましたが、引退後、道を歩いていてもご婦人方から「引退お疲れさま。でもいい後継者が出てきてよかったじゃない」という声がかかるんですよ。そのあとも藤井聡太さんが対局で勝つと、「藤井さんの将棋について語ってくれ」と、ずいぶんテレビ局から頼まれて、いちばん多いときは1日に5本出たこともありました。

 あるとき、たまたま将棋会館で藤井さんに会ったから、藤井さんに「あなたが勝つと、私テレビに呼ばれるんだよ」と言ったら笑っていました。
 
茂木 藤井聡太特需ですね(笑)。

胸がわくわくする棋士は
後にも先にも藤井聡太だけ

加藤 私は、藤井さんの将棋が好きなものだから、今でも研究しています。具体的に言うと、一昨年(2022年)、藤井さんが王位戦で、後手番の腰掛け銀で豊島将之さんに勝った。これも僕は1週間考えました。完璧でした。

 今の将棋界は昔と違って腰掛け銀全盛ですよ。腰掛け銀は先手番の腰掛け銀と後手番の腰掛け銀がありますが、藤井聡太の将棋は先手番の腰掛け銀はもちろん、後手番の腰掛け銀でも勝てる。いや、さすがですね。

 はっきり言って僕は、藤井さんの将棋を研究すると胸がわくわくする。今までいろいろな名人と戦ってきたけども、胸がわくわくするっていう棋士は、藤井さんの将棋だけです。