9月の自民党総裁選に向けた一連の候補者討論会の一コマで、高市早苗氏が「ネット(差し引き)でみたら日本の財政状況はG7で良い方から2番目だ。見方を変えれば全然問題ない」と発言し、関心を引かれた方もいるだろう。
新聞報道は次のように伝えている。「資産と債務を合わせた純資産の国内総生産(GDP)比で主要7カ国(G7)で日本は2番目に健全だと訴える。鈴木俊一財務相は道路など市場売却できない資産を多く含み『適切ではない』と説く」(日本経済新聞、9月25日付)。
残念ながらこの報道記事内容は不十分で、問題の全体像が語られていない。今回はこの問題を取り上げて解説しよう。
日本の政府・公的部門は資産超過か、負債超過か
国際通貨基金(IMF)はかねてより1980年まで遡及して世界各国政府(一般政府部門)のグロス金融負債残高、並びに金融資産・負債の差額である純負債を各国通貨建て、並びに名目GDP比率で開示している。データは各国の財務省から提出されるものだ(IMF World Economic Outlook Database, April 2024)。このデータについては後述する。
それに加えて2018年以降、「公的部門の資産・負債(Public Sector Balance Sheet)」(以下「PSBS」と記載)として、中央政府と政府関連法人全体を対象に、固定資産を含む包括的な資産・負債状況を各国通貨建て、並びに名目GDP比率で試算、開示するようになった。
IMFの当該サイトでは「中央政府」「一般政府(=中央政府+地方政府+社会保障基金)」「非金融公的企業」「政府系金融機関」の4つのカテゴリーの資産・負債と、最後にそれら全てを統合した連結ベースのPSBSが示されている。
日本について見ると最新では2020年末の資産・負債が示されており、連結ベースのPSBSでは、日本は純負債ではなく、純資産48兆円(名目GDP比9%)と高市氏が述べた通りだ。
ところで、日本の財務省も「国の財務書類」としてIMFのPSBS同様に一般政府部門に政府系機関まで含めた連結ベースの資産・負債を年度ベースで作成、開示している。これで2020年3月末の連結貸借対照表(資産・負債表)を見ると、資産・負債差額は523兆円の純負債である。
同じ政府部門全体を対象にしているはずなのに、IMFデータでは純資産、日本の財務省資料では純負債と正反対で、その差額は571兆円と巨額だ。これはどういうわけだろうか?もちろんIMFの日本に関するデータは日本の財務省が提供しているものだ。
IMFは暦年末、財務省は年度末ベースなので、ぴったり照合しないのだが、例えば日本の公的部門の「現金・預金残高」は、IMFデータでは152兆円(2020年末)であり、財務省データでは127兆円(2020年3月末)、166兆円(2021年3月末)である。時点のずれを一致させれば、双方は一致すると見て良いだろう。