円高になれば企業の利益も縮小するので、結局のところ、望ましいバランスが実現されることになる。この観点からも、金融の正常化を早急に進めることが必要だ。

 以上で述べたことを繰り返せば、つぎのとおりだ。

 中長期的には、生産性が上昇しないと、賃金は増えない。生産性が上昇して付加価値が増えれば、賃金が上昇して消費が増加し、その結果、経済成長率が高くなる。

 日本は、そのちょうど逆の状態に落ち込んでいる。こうした事態をもたらす基本的原因は、付加価値が増加しないことだ。

日本を破綻に導く「英国病」の再来か?平均賃上げ率5%超えも手放しで喜べないワケ『アメリカはなぜ日本より豊かなのか?』(幻冬舎新書)野口悠紀雄 著

 賃金は、掛け声だけでは上昇しない。実質賃金の継続的な上昇は、生産性を高める地道な努力によってのみ実現する。ただし、これは中長期的な経済政策の課題であり、すぐに効果が現れるといった性質のものではない。

 生産性上昇を伴わない賃金の上昇は、スタグフレーションを加速させる危険がある。その意味で、問題をはらむ政策だ。

 実質賃金を維持するために短期的な経済政策として実行すべきことは、物価上昇を食い止めることだ。現在の日本での物価上昇は、基本的には円安による。したがって、為替レートを円高に導くことが必要だ。