このとき、日本は賃上げを抑制することに成功した。それは、労働組合が企業別になっているため、「無理な賃上げを要請すれば、企業の経営が立ちゆかなくなり、労働者も企業とともに沈没してしまう」との考えに、労働組合が賛同したからだ。日本がオイルショックへの対応で世界の優等生になったのは、このためだ。

賃上げを価格転嫁するなら
労働生産性は向上しない

 ところが、現在の日本では、賃上げが販売価格に転嫁されることが「デフレからの脱却」であるとして、望ましいと考えられている。

 政府も価格転嫁が望ましいとし、それを進めるべきだとしている。本来あるべき姿とまるで逆なことが望ましいとされているのだ。

「物価が上昇しない経済では、さまざまな関係が固定化されてしまって、調整がうまくいかない。しかし、物価が全体として上昇していく中では、そうした調整が容易になるから望ましいのだ」と言われる。

 しかし実際には、賃金上昇が物価を引き上げ、それがさらに賃金を引き上げるという悪循環に陥る可能性がある。他方で生産性は上昇しないので、経済が成長しない。