その先にはいつもは青の信号があった。しかし、はっと気が付くと信号は赤く点灯している。前方には間違えてこちらの線路に入ってきた貨物列車が止まっているではないか。このままでは正面衝突してしまう。

「この時、本当に髪の毛が立ち上がって帽子が頭から浮き上がったんだよ」

 力いっぱいブレーキを踏みこみ、止まってくれと念じると、奇跡的に貨物列車の数10センチ手前で列車は停車した。そのままバックさせて、近くの蘭泊(らんどまり)駅へ。そこから真岡に向かい、無事到着したのは午後2時30分ごろである。

 その日は夕方まで勤務して、夜にやっと泊居の官舎に帰宅した。眠りにつく前、電話がかかってきて、すぐに軍の施設に行くようにとの呼び出しを受ける。逃げようとは思わなかった。

 確かに信号を見落としたのは自分の過ちだが、誰かを殺したわけではないし、何かを壊したわけでもない。貨物列車の機関士の方にも問題があったのだから、事情を話せばそれで放免されるだろうと、深刻さは感じなかった。

 施設の事務所に行くと部屋には誰もおらず、仕方なく朝まで1人、座り続けた。