周囲は再婚を勧めるが、藤村は聞き入れない。しかし、小さい子の世話もある。そこで名古屋にいた次兄広助の長女久子が、家事の手伝いにくる。やがて、学校を卒業した次女のこま子も加わり、逆に久子は嫁いで藤村の家を出た。その状況で、藤村とこま子は性的な関係を持ってしまったのである。そして、1912年にはついにこま子は懐妊してしまう。
次兄の娘だけでなく長兄の娘とも
あぶない関係を結ぶ一歩手前に
実は、このような近親相姦の怪しい関係は藤村にとって初めての体験ではなかった。『家』では、長兄秀雄の長女いさとの間に起こった、あぶない接触が告白されている。
ある「草木も青白く煙るやうな夜」、三吉(藤村)はお俊(いさ)と雑木林を散歩する。「月光を浴びながら、それを楽しんで歩いていると」、「不思議な力は、不図、姪の手を執らせた。それを彼はどうすることも出来なかつた」のである(『家』下巻、3頁)。
しかし、お俊との「関係」はこれで終わるが、節子(こま子)とは肉体関係にまで及び、さらに妊娠という事態にまで至る。