いずれ、どのようなプロジェクトも、企画の発案者一人では動かせません。
その企画に賛同し、その企画の実現に協力してくれる職場の仲間がいて、初めて、そのプロジェクトが動き始めるのです。

しかし、この山本さん、同僚の中村さんや小林さんが企画の説明をしているとき、「早く自分の企画を説明したい」という思いが勝ってしまい、二人の企画にあまり耳を傾けようとしていません。そのことを二人も感じ取っているため、仮に、山本さんの企画が採用されても、協力して一緒にプロジェクトを進めようという気にならないのです。

「あの人は、相手の気持ちが分からない……」と言われてしまう人

では、この山本さんが突き当たっている壁は何か。
それが、優秀な人が突き当たる、

感情に支配され、他人の心が分からない

という「感情の壁」です。

こうした壁に突き当たる一つのタイプとして、この山本さんのように、優れたアイデアや企画は出せるが、職場で浮いてしまうタイプのビジネスパーソンがいます。
しかし、他にも、この壁に突き当たる優秀なビジネスパーソンは、決して少なくありません。

例えば、「営業成績を上げたい」という気持ちに駆られ、目の前の顧客の気持ちが読めない営業パーソンも珍しくありません。

同様に、自分の専門分野の技術へのこだわりとプライドから、その技術について門外漢の上司に対して、無意識に「上から目線」の説明をしてしまうエンジニアも、ときおり、目につきます。

また、例えば、自分が責任者を務めるプロジェクトを、予定通りに進めなければという思いが強いため、厳しいスケジュールをプロジェクト・メンバーに要求する一方、そのメンバーの中に不満が溜まっていることに気がつかないプロジェクト・リーダーもいます。

こうしたビジネスパーソンは、仕事に対する意欲も責任感もあり、ある意味で優秀なのですが、彼らの問題は、自分が認められたい、自分が成果を挙げたいという気持ちに支配され、相手や周りの人間の気持ちが分からないことです。

すべての仕事は、「人の心の動き」を感じることから始まる

もとより、この「相手や周りの気持ちが分かる」ということは、ビジネスに関わるすべての人に求められる大切な能力でもあります。なぜなら、すべてのビジネスが、「人間の心」を対象とした営みだからです。