それゆえに、本来は「本当にだめだね」だけでも通じるが、相手がきちんと理解できているかどうかを確認するために、「君は」を付け足しているわけだ。

 今まで見てきた例で考えると、飛龍革命の藤波さんの台詞「もっと信頼してください、俺のこと」なんかは、この「古い情報を後ろに持っていくタイプ」に分類できそうだ。

 この文において「俺のこと」は分かりきった情報なので、「もっと信頼してください」だけでも藤波さんの言いたいことは通じる。しかし、もし猪木が分かっていなかったら困るので、一応確認のために「俺のこと」を追加していると考えられる。

 つまり藤波さんの思いを代弁すれば、「猪木さん、俺が『信頼してください』って言ってるのは、もちろん他ならぬ俺のことですよ」という感じだろう。このタイプの後置文では、言わなくても分かっていることをあえて言うわけだから、ある種の強調が生じることになる。

新しい情報を後ろに持っていく例
「私言ったの、結婚したいって」

 久野は(1)のタイプの後置文のみを認めていたが、高見健一(注3)および江口巧(注4)は、先に挙げた(2)のタイプの存在を指摘した。

 私言ったの、結婚したいって。(注5)

 おい、見たぞ、おまえがあいつに車の陰で金を渡しているところを。(注6)

注3 高見健一『機能的構文論による日英語比較─受身文、後置分の分析』、くろしお出版、1955年。
注4 江口巧「日本語の後置文─情報提示の方略」、『言語文化論究』12、2000年、81-93頁。
注5 高見の前掲書、232頁。
注6 江口の前掲書、84頁。