これらの例では、述語より後ろに置かれている「結婚したいって」や「おまえがあいつに車の陰で金を渡しているところを」が、聞き手にとって新しい情報である。

 しかも、前の部分の「私言ったの」「おい、見たぞ」にはそれぞれ「何を言ったか」「何を見たか」という情報が欠けているので、そのままでは相手に通じない。これらが(1)のタイプと異なる点である。江口はさらに、(2)のタイプの後置文を次の2つに分けている。(注7)

(2-1)頭に浮かんだままのことをしゃべったら不完全な文になったため、後で情報を補ったもの

(2-2)後ろに持っていく部分に聞き手の注意を向けるため、意図的に語順を逆転させるもの

シナリオ上のキメ台詞は
倒置法があってこそ

 確かに、この2つは実際にありそうだ。個人的な印象では、プロレスラーの発言には(2-1)の「不完全な文を言ってしまったので、後で補足しました」というパターンが多い気がする。

 そもそもプロレスラーは対戦相手を煽ることが多いので、言葉に感情が乗りやすい。また、発言のタイミングもたいてい試合が終わった直後とかなので、息切れしていたりテンションが上がりすぎたりしていて不完全な文が出てきやすい。

注7 ここで挙げる(1)(2─1)(2─2)はそれぞれ、江口の前掲書で「タイプ1」「タイプ2」「タイプ3」と呼ばれているものに相当する。ただし、本稿におけるそれぞれのタイプの記述・説明は、筆者が江口の前掲書を読んで理解したところを、専門用語を使わずに言い換えたものである。