こんなふうに倒置法の文は、普通の語順に戻したときとの差が大きく、そのギャップを味わうのが楽しい。私の感覚では、メイクが上手な人の化粧前と化粧後を比較する感じに近い。ただしメイクは手間がかかるものであるのに対し、倒置法は単に語順をひっくり返すだけで大きな効果が得られるのだから面白い。

 1つ悔やまれるのは、ラジオの収録中、清野さんに「なぜ、倒置にはそういう効果があるんでしょう?」と訊かれて、きちんと答えられなかったことだ。そのときは「ほんと、何でなんでしょうねえ~」とヘラヘラ笑ってごまかしたが、帰宅してから「あれはまずかった」と思った。答えられなかったのは知らなかったからで、知らなかったのはろくに調べたことがなかったからだが、これは失態だ。

 専門家といっても知識にムラがあるのは仕方のないことだが、自分から話題に出しておいて、いざ何か尋ねられると答えられないというのは恥ずかしい。こんなふうだから、私はやっぱり研究者に向いてないんだなあと思う。

倒置が起こっている文には2種類ある
「古い情報を後ろに持っていく」場合

 そこで遅ればせながら、少しばかり関連文献を読んでみた。ちなみに言語学や日本語学では、倒置が起こっている文を「後置文」と呼ぶことが多いようだ。日本語の文の中では述語が最後に来るものだが、この手の文では「述語でないものを述語よりも後ろに置いている」から、そのように呼ばれるのだろう。