ここから先は日本語に関する限り、「後置文」という用語を使うことにする。ちなみに、以下で述べるのは私が先行研究をいくつかざっくり眺めて理解したことにすぎない。時間の都合ですべての先行研究に目を通せなかったし、そもそも私の理解が間違っている可能性もあるので、そのあたりはご了承いただきたい。

 先行研究を眺めて分かったのは、後置文というのは意外と複雑な現象だということだ。雑にまとめれば、後置文には大きく分けて以下の2つがある。

(1)文脈から見て古い情報を後ろに持っていくタイプ

(2)新しい情報を後ろに持っていくタイプ

 つまり、「分かりきったことだから後回しにした」のか、「新しい情報だから後で言った」のかという違いである。

(1)のタイプの存在を指摘したのは久野暲(注1)である。久野は次のような例を挙げている。

 本当にだめだね、君は。(注2)

 この文は、「本当にだめ」なのが「君」だということが、話し手にとっても聞き手にとっても明らかなときにだけ使える。つまり「君は」は、話し手と聞き手の双方にとって分かりきった古い情報である。

注1 『談話の文法』、大修館書店、1978年。
注2 前掲書67頁