もちろん、そんなことを本当にやったらトラブルの原因になりますから、やりませんでした。

 いま思い返すと、そのときの自分の心の狭さに愕然としますが、このとき私は、たぶん復讐心に駆られていたのだと思います。私は、先輩の「ぐぬぬ」顔を想像しては、愉快な気持ちに浸っていました(みなさんはこういう大人にならないでくださいね)。

 このように、復讐は甘美なものです。ある意味では、復讐することは楽しいです。しかし、それは純粋な意地悪とは異なっています。

 私は、復讐が果たされたと確信するその瞬間まで、先輩に言われた嫌味にずっと苦しんでいました。心の中で、そう言われたとき先輩の声が響き、先輩の表情がぼんやりと浮かんでいました。先輩の「ぐぬぬ」顔は、その亡霊のようなイメージを消し去ってくれたのです。

 復讐の喜びは、そのようにして自分の何かが取り戻されたように感じること、自分の中につけられてしまった傷が修復されたように感じることなのではないでしょうか。

 そもそも、復讐っていいことなのでしょうか。それとも、悪いことなのでしょうか。