しかし、自分の苦痛を求めるという点では、両者の間に違いはありません。いったい何が両者を区別しているのでしょうか。

 すぐ考えればわかることは、両者にはその目的に違いがある、ということです。

 筋トレは、自分自身の筋力を増大させるために行われます。筋トレとは、まさに、自分自身をパワーアップさせたい、成長させたいという思いから行われる行為です。だから、その行為の目的は自分自身である、ということになります。

筋トレという自傷行為にハマる人が続出…痛みから快感を得る人の頭の中『悪いことはなぜ楽しいのか』(戸谷洋志、ちくまプリマ、筑摩書房)

 しかし、リストカットはそうではありません。ほとんどの場合、それは一時的な感情の昂ぶりから引き起こされます。しかもそれは、自分をよくしたいという、ポジティブな思いに駆られたものではないでしょう。

 むしろ、自分を許せない、自分を罰したい、自分を否定したいという、ネガティブな気持ちから、人は刃物を手に取るのではないでしょうか。

 そうだとすると、リストカットの目的は、自分自身にあるのではありません。なぜならそれは自分自身を否定しようとするものだからです。

 おそらく、私たちがリストカットを許せないと思うのは、その行為が、あくまでも否定的な感情に駆られたものであり、自分自身を蔑ろにしているように感じるからではないでしょうか。