中東情勢を考える上で
イランについて知っておくべき基本事項三つ
イランを中心に中東情勢を考える際に、踏まえておくべき基本的な事柄は三つある。
一つ目は、イラン人の多くがイスラムの少数派であるシーア派の信徒であること。二つ目に、革命を知らない世俗的で開明的な青年・壮年層が今や人口の大半を占めていること。そして三つ目として、イランがアラブ民族とは言語も歴史も異なるペルシア民族を主体とする国であることだ。
7世紀にイスラムを創始した預言者ムハンマドはアラブ出身であり、現在もイスラム世界の中心地はアラブ諸国である。そしてその多くは、スンナ派を奉じている。言いかえれば、民族的に非アラブ、宗派的に非スンナであるイランは、実はイスラム世界全体から見れば二重の意味で異端的ポジションにある。
それゆえに、現在のイランの体制が「イスラムの盟主」を自任し、スンナ派アラブ国家であるパレスチナの肩を持つことに強い違和感を覚えるイラン人は少なくない。しかも、その国民の多くはそもそもイスラムにあまり関心がない。
この点は拙著『イランの地下世界』で詳しく述べたのでここでは繰り返さないが、イラン人には礼拝や断食もせず、酒や豚肉も抵抗なく受け入れるといった「ゆるい」ムスリムが非常に多い。他のイスラム国家と比べても、少なくとも国民レベルではイスラム離れが最も進んでいる国の一つと言えるだろう。
そんなイランが中東の紛争に深入りしている現状を、当のイラン人はどう見ているのか。あえて乱暴なたとえで言えば、真面目な仏教徒がほとんどいない日本が、「同じ仏教国だから」という理由でラオスやミャンマーの軍事支援に莫大な予算をつぎ込み、それがために抜き差しならない状況に追い込まれているようなものかもしれない。
要するに、いまイラン人の間に漂っているのは、壮大な“シラけムード”なのだ。日本のメディアでは「イスラエルを懲罰する」と息巻く最高指導者ハメネイら、首脳部の声ばかりがクローズアップされているが、それは決して国民の総意ではない。