パソコンを開く頭髪を隠した女性写真はイメージです Photo:PIXTA

コーランには「神は女性に対し、外に表れるもの以外の美しさを目立たせてはならない」といった主旨の一節があり、ムスリム女性はスカーフやベールで頭髪を隠し、体のラインがでないようなゆったりした服装をするのが望ましいとされている。イスラム共和国であるイランには、ベール不着用者への罰則があり、公共の場で着用していないと鞭打ちの刑を受けることもある。2020年代、コロナ禍のイランでもオンライン授業や会議が普及した。家の中ではスカーフの着用義務はない。オンライン授業やホームパーティで、イランの女子たちがどんな格好をしているかというと……。(イラン在住日本人 若宮 總)

※本稿は、若宮總氏『イランの地下世界』(角川新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「2重のくびき」――ベールを強制するのは誰か

 イランでベール着用が義務化されたのは、イスラム革命直後の1980年のことだった。革命の指導者として、当時、絶対的な権力を握っていたホメイニはこの年、社会の「イスラム化」の一環として、公務員の女性たちにベール着用を命じる。

 ベール強制が既成事実化されることを恐れた女性たちは、これに激しく抵抗した。なかには、「革命は支持したが、ホメイニがベールを強制するなら、イスラム教徒をやめたほうがマシだ」と公言する者すらいた。

 しかし、ホメイニは聞く耳を持たず、ベール着用の対象者を、公務員からすべての女性へと拡大していく。

 街頭では、ベール強制に抵抗する女性がこん棒で殴られて重傷を負ったり、顔に硫酸を浴びせられたり、拘束されて額に画びょうを打ち込まれたりするなど、おぞましい弾圧が行われた。女性たちは恐怖心から、しだいにベールをまとわざるをえなくなった。

 そしてついに1984年、議会でイスラム刑法が制定され、ベール不着用者への罰則(74回の鞭打ち刑)が定められると、ベールなしで公共の場に出ることは、名実ともに犯罪となってしまった。