スカーフを着用した女性たちPhoto:Unsplash

政教一致の国・イランでは、女性は公共の場ではヒジャブ(スカーフ、ベール)を着用して髪を隠さなくてはならない。しかし2022年9月、テヘランで22歳のイラン人女性が「スカーフを着けていなかった」と道徳警察に逮捕され、暴行を受けて数日後に死亡するという事件が起きた。これをきっかけに人々の怒りが爆発、女性や若者を中心に、イラン全土で反政府デモが行われた。あれから2年。首都・テヘランでは現在、大勢の女性たちがスカーフなしで街を歩いている。イスラム体制が崩壊したわけでもないのに、いったい何が起こったのだろうか?(イラン在住日本人 若宮 總)

※本稿は、若宮總氏『イランの地下世界』(角川新書)の一部を抜粋・編集したものです。

2023~24年、女性達がスカーフなしで
テヘランの街を歩くようになった

 2022年の反体制デモから1年半以上が経った今、テヘランを訪れる人はそこをドバイやイスタンブルと錯覚するかもしれない。

 もちろん、テヘランにはドバイのように高級なビーチリゾートもなければ、イスタンブルに似たフェリーの行き交う穏やかな入り江もない。しかし、この町には新しい「風景」がある。スカーフなしで歩く女性たちだ。 その姿は、まさに一つの風景と言ってよいほど、すっかりこの町になじんでいる。女性がスカーフを外して道を歩くだけで、すすけたコンクリート砂漠だと思っていたテヘランの町の印象さえも、どこか明るくなる。

 正直、これほど短い期間に、これほど大きな変化が起こるとは思ってもみなかった。それはイラン人にとっても同じだ。何しろ、ついこのあいだまで「スカーフが自由になる日は、イスラム体制の崩壊する日」とまで言われていたのだから。