パレスチナのガザ地区でイスラエル人とハマスが戦闘を開始して1年が経った。しかし今年に入り戦局は一変。9~10月、イスラエルとイランがミサイルの撃ち合いを始めたのだ。イスラエルとの全面戦争待ったなしという状況下、当のイラン人はこの中東情勢をどう見ているのか。そして、アメリカ大統領選でトランプ氏が勝ったことはどう影響するのか?まったく違う方向を向いている、イラン政府の思惑とイラン国民の気持ちを、『イランの地下世界』(角川新書)の筆者がわかりやすく解説する。(イラン在住日本人 若宮 總)
泥沼の中東情勢は
「イスラエル VS イラン」という新局面に突入
2023年10月7日、パレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルの民間人を襲撃したことに端を発する中東の危機は、それから1年以上を経た今、イスラエルとイランの全面戦争待ったなしの様相を呈している。
しかし、メディアの報道では、イスラエルの世論やガザの惨状などは伝わってきても、重要なプレイヤーであるイランの動きやその意図するところは、なかなか見えてこない。分厚いベールに覆われたこの国で、いま何が起きているのか。その政府と国民はどんなシナリオを描いているのか。本稿では、イラン人たちの生の声も紹介しつつ、こうした問題に迫ってみたい。
イランといえば日本では「敬虔なイスラム教国」「過激な反米国家」といったイメージが定着している。実際、世界広しといえどもイランほどコワモテで近寄りがたい国も、そうはない。
それもそのはず、イランは1979年のイスラム革命以来、「イスラム」と「反米」の二つを内政と外交の基軸に据えてきた。イランがパレスチナを熱心に支援してきたのも、こうしたイデオロギーを堅持しているがゆえである。
とはいえ古今東西、体制のイデオロギーと一般的な国民感情が完全に一致しているような国は稀である。イラン国民の場合も、そのすべてが敬虔にして反米というわけでは決してない、ということをまず日本人は知っておくべきだろう。