コロナ禍で雇用を守るために設けられた雇用調整助成金の特例措置には、3年間で6兆円以上が投じられた。窮地に陥った企業の雇用維持に大きな役割を果たしたが、コロナ禍が収束した2023年から不正受給の摘発が相次いでいる。これまでに不正受給した1437社の社名が公表されたが、さらに件数は増え続けている。悪質な場合、刑事事件に発展するケースもあり、社名が公表された企業の倒産リスクが顕在化している。(東京商工リサーチ情報部 増田和史)
特例措置終了から約1年半が経ち
相次ぐ不正受給企業の社名公表
コロナ禍に対応した企業支援には、持続化給付金やゼロゼロ融資(無担保・無保証融資)に並んで、「雇用調整助成金」、「緊急雇用安定助成金」(以下、両助成金を雇調金と呼ぶ)があった。
もともと雇調金は、事業主が労働者に休業手当を支払う際、その一部を助成する制度だった。だが、緊急を要したコロナ禍に対応し、雇用維持を目的に2020年4月から2023年3月まで特例措置が設けられた。
特例措置の条件に合致すると、労働者1人あたりの助成率や上限額が引き上げられ、申請書類なども大幅に簡素化されて事業主の申請手続き負担が軽減された。
厚生労働省の資料によると、それまで申請から支給決定まで2カ月程度を要したが、特例措置では書類に不備がなければ概ね2週間程度と大幅に短縮された。ピークの2020年10月は1カ月で約35万件が処理され、支給の迅速化につながった。
こうした関係先の取り組みの甲斐あって、特例措置は3年間で約6兆4000億円の雇調金が支給された。コロナ禍で大打撃を受けた外食や飲食、宿泊、小売り、交通インフラ、観光業など、幅広い業種で活用され、雇用維持と企業の資金繰りを下支えした。
雇調金の受給は企業規模に関係はない。上場企業でも約2割の869社が雇調金を活用し、総額は9427億円と1兆円に迫った。また、100億円以上の雇調金を受け取った上場企業も18社あった(いずれも東京商工リサーチ調べ)。
だが、特例措置の終了から約1年半が経過し、雇調金を不正受給した企業の社名公表が相次いでいる。