東レはなぜ不正を繰り返すのか――。特集『東レの背信 LEVEL3』(全5回)の最終回では、日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」策定に携わり、旧山一證券の経営破綻やNHKのインサイダー取引事件、KADOKAWAの東京五輪汚職事件など数々の事案で調査を手掛けた國廣正弁護士に、不祥事を繰り返す企業の共通点を聞いた。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
「うみを出し尽くす」トップの覚悟が
企業不祥事の根絶に欠かせない
――東レのような大企業が、なぜ不正を繰り返すのでしょうか。
同じ大企業でも例えば三菱電機は1年以上調査し、多くの不正事案が明るみに出ました。本気で調査を行えば、ああいうことになる。「三菱電機はけしからん」と皆言うが、少なくとも会社にとって恥ずかしい話を洗いざらい出してしまおうという企業姿勢はあるのだと思う。
それはやはりトップが、「これを機にうみを出し尽くす」と本気で腹を据えているから。そして途中でやめない。もちろん不正はよくないですが、不正が起きてしまった後の企業姿勢という観点では、三菱電機にある種の誠実性は認められると思うんです。
その誠実性は一体どこから来るのか。それはトップの覚悟です。トップが覚悟していると従業員が考えれば内部通報などで情報は出てくる。しかしトップの腹が据わっていないと見られれば、情報は出てこない。
「トーン・アット・ザ・トップ」という言葉があるように、企業風土をつくる、あるいは変えるのは経営トップの姿勢なんですね。100パーセントではないものの、三菱電機にはそれがあるように見受けられる。
不正に対する反省や、企業風土を変える決意を持ち得るのはトップしかいない。従業員は皆トップを見ているからです。従業員に「不正を隠したら会社が存続できない」という危機意識を持たせるには、トップがその考えを持って覚悟を決めないといけない。
次々に不正が明るみに出る会社は、不正を繰り返しているわけではなく、不正を全て出し尽くしていないから繰り返しているように見えるのです。つまりトップの覚悟が不足している。これは一般論ですが、東レもそうした会社なのかもしれません。
企業不祥事の調査委員会の先駆けは、旧山一證券の簿外債務を調べた「社内調査委員会」とされる。この報告書作成に社外委員として携わった國廣正弁護士はその後、数々の企業不祥事の調査に携わった。旧山一が自主廃業した1997年から四半世紀。國廣弁護士は現在の企業不祥事をどのように見ているのか――。