壁を壊しても謝らない隣人に
ブチ切れた筆者が取った行動とは
壁を壊された私もビックリ、壊したインド人もビックリ。ぽっかり開いた穴の向こうとこちらで向かい合って立ったまま、両者はしばらくのあいだ言葉も見つからないのだった。
第三者が見たら、ほとんどドリフターズの定番コント。爆笑してよい場面である。しかし私は当事者なので、少しも笑えない。
やるべきことは、ただ一つ。今すぐ社長室へ行き、たった今起こったことについて社長に知らせることだ。その際、私がこの件でいかに憤慨しているかを伝えることが肝心だった。なにしろインドでは、「目と目で見つめ合えば言葉は要らない」なんて生ぬるい作法は通じない。言いたいことがあったら、徹底的に言葉で伝えるしかないのだ。
次の瞬間、私は猛烈ダッシュで隣家に駆け込み、いちばん奥の社長室へ直行。呆気に取られている社長に、たった今起こったばかりの事故について詳細に告げた。
社長はこの瞬間まで何も把握していないようだったが、私の説明を聞き終えると、なぜかいきなり大声で笑い出した。
「壁に穴が開いた?ワッハッハ。そりゃあキミ、傑作だねえ。そんな面白い場面を見られてラッキーだったじゃないか。壁の穴は来週までに直させるよ。ノープロブレム。ハッハッハ」
山田真美 著
ゴメンを言わないことがインドの文化らしいことには気づいていたが、この社長はいくらなんでも酷すぎる。甘く見られないためにも、この場で決着をつけなくてはいけない。
そう思った私は、次の瞬間、少林寺拳法の構えをして大声で叫んでいた。
「この大バカ者!それでもお前は人の上に立つ人間か!壊した壁は今から5分以内に修理せよ。さもなければ実力交渉に出る。こう見えても私は東洋武術の達人なのだ!戦う気なら表に出ろ!」
少林寺拳法を習ったことがあるのは事実だが、武術の達人うんぬんはハッタリである。
しかし、この言葉には劇的な効果があった。社長は真っ青になってその場から逃走。壁は職人5人がかりであっと言う間に修繕され、わが家にはとりあえずの静寂が戻ってきたのだった。