「統合失調症」の発症は
巨大地震が起こったようなもの

池田 正確に言うと、脳の細胞自体は分裂しないから新しい細胞に変わることはないんだけれど、脳の細胞を構成する分子が毎日新しいものに入れ替わっている。構成する物質の種類は変わらないから、細胞がクルマだとすると、部品を新しいものに変えてるようなものだね。だから昨日の細胞と1カ月後の細胞では、中身を構成してる物質が違うものになっている。

 それから、シナプスのつながり方も常に一定じゃない。どうつながるか、どうコミュニケーションするかっていうのは、どんどん変わっているわけだから、自我を作り出しているプロセスもどんどん変わっている。どんどん変わっていくにもかかわらず、自我が同じだと思うのはどうしてなのかっていう問題ね。

 我々が自我だと思っているものは、厳密にはどんどん変わっているにもかかわらず、ある範囲の中で変化しているものに関しては「これは同じだ」と思うことができる。人間はそういう能力を根本的に持っているんじゃないかと俺は思う。

 だけどあまりにも変化しすぎて、ある範囲を超えてしまうと、自我の同一性を保つのが難しくなって変調をきたす。その一例が、統合失調症だよね。いきなり統合失調症を発病した人に話を聞くと、「ドアを開けたら世界が変わってる」と言う。すごく怖いみたいだよ。でも、変わったのは世界じゃなくて自分なんだよね。自我に変調をきたして、それまでとは現実の認識の仕方が全く違うようになってしまった。