池田 認知症になるのを恐れている人が多いけど、認知症にはいい面もあるんだよ。死ぬのが怖くなくなるということ、それから痛みを感じにくくなること。

それはいい。痛いのやですよねえ。

池田 がんの末期に痛みに耐えかねて、鎮痛剤のモルヒネを打ってくれとか言うのはだいたい健常者で、認知症の人はあまり欲しがらない。痛みに対する感受性が、全然違うみたいだね。だから神様は人生が終わる頃に、認知症にしてくれるのかもしれないよ、死ぬのが怖くなくなって、痛くなくなるように。

書影『老後は上機嫌』(ちくま新書、筑摩書房)『老後は上機嫌』(ちくま新書、筑摩書房)
池田清彦(著)、南 伸坊(著)

池田 それから、認知症の人の一部にはすごく楽しそうな人いるよな。女の人にそういう人が多い気がする。女性は90歳過ぎると平均6割以上の人は認知症になるんだけど、そんなに悲観しなくてもいいんじゃないかな。

 俺の友達のお母さんが介護施設に入っていて、グループで活動する時に1グループ4、5人ぐらいに分かれるんだけど、その中で自分だけ認知症じゃないからすごく寂しいって言ってた。「他の人たちは、みんなで自分にはつまらない話をして、にこにこ笑って面白がっている。でも私は退屈。だから早く認知症になりたい」なんて言ってるらしいけど、「なりたい」って言ってなれるもんじゃない。

 南さんは、『おじいさんになったね』(だいわ文庫、2019年)に、年寄りは機嫌がいいやつのほうが長生きするみたいなこと書いてたよね。

どうせならご機嫌なほうが……ねえ?