登山鉄道の車両候補から
超低床車両が消えたワケ
山梨県は2023年10月に「富士山登山鉄道構想事業化検討会」を設置し、事業スキーム、法制度、技術面の検討を深度化してきた。当初は2023年度中の中間報告を予定していたが、約半年遅れの今年10月までずれ込んだ。今となってみれば、超低床車両の導入が困難であることが明白になり、今後の方向性をめぐって議論が紛糾した結果であった。
中間報告にあわせて公表された「技術課題調査検討結果」は、「LRTシステムの導入」を前提条件としながら、その車両には超低床車両を選ばなかった。なぜ超低床車両は候補から消えたのか。
前回記事で触れたように、スバルラインの最急勾配は88パーミル(1000メートルあたり88メートル上る勾配)、最急曲線は半径27.5メートルであり、前例の無い路線条件となる。
現在、国内で最も急勾配の小田急箱根鉄道線は最急勾配80パーミル、最小曲線半径30メートルだ。そこで、同路線で用いられる「普通型LRV」である最新型車両「3000形」をベンチマークとして車両の構成を検討した。
一般的な電車は屋根上に空調装置、床下にモーター制御装置、コンプレッサーなど走行に必要なさまざまな機器を搭載しており、3000形も同様の構成に加え、屋根上に電気ブレーキ用の抵抗器を搭載している。
しかし、超低床車両は床下にスペースがないので、これらを屋根上に搭載しているのだが、登山鉄道には急勾配に対応した大型のモーター、安全を担保するための複数のブレーキシステムなど追加の設備が必要であり、屋根上に収まりきらない。
結局、調査検討書は「車載機器艤装が困難」のため「フル・フラットの低床LRTは推奨されない」として、「現時点での技術的に成立の可能性があるのは、普通型と考えられる」とまとめている。この時点で山梨県の描いたイメージは幻となった。
県が代案として提示した「富士トラム」
実態は三連接車体のEVバス
18日の山梨版NHKニュースは「技術面の課題」に加え、「資材の高騰で事業費が不透明なこと」「噴火や雪崩などの災害対応」などへの地元の懸念を尊重したと報じているが、LRTではない通常の登山鉄道では、県民の支持を得られないという判断が大きかったのではないか。
それを端的に示すのが、県が代案として提示したゴムタイヤ式の交通システム「ART(Autonomous Rapid Transit)」だ。