東京「地下鉄」というように、営業エリアが地面の下にある東京地下鉄(東京メトロ)は、不動産をほとんど保有していないため、鉄道事業が売り上げの 9 割を占める事情がある。東急が主導する「100 年に1度」の渋谷再開発など、鉄道業界では非鉄道事業での収入拡大がトレンドになっているが、メトロはこの波に乗ることができるのか。特集『メトロ上場! 鉄道「最強株」の正体』の#2では、東京メトロの不動産事業に迫る。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
高収益も成長性に欠ける運輸事業
成長の切り札は不動産か
本特集の#1『上場目前!東京メトロ株は「買い」なのか?利回りではJR東日本に圧勝、同業他社と徹底比較』では東京地下鉄(東京メトロ)の株価指標と運輸事業に着目し、メトロ株が「買い」か否かを判断した。
運輸事業の収益性が高い東京メトロだが、実はほとんど不動産を保有しておらず、不動産事業の売り上げに占める割合は3%ほどだ。
同業他社と比較しても不動産事業の規模の小ささは歴然だ。例えば、東急の売り上げの25.8%は不動産事業によるものだ。こうして比べると東京メトロの不動産事業が極めて小規模であると分かる。
その一方で、東京メトロは鉄道業界でJR本州3社(東日本旅客鉄道〈JR東日本〉、東海旅客鉄道〈JR東海〉、西日本旅客鉄道〈JR西日本〉)に次ぐ120億円の地方税を支払っている側面もあり、その額は東急電鉄よりも約60億円多い。なぜ、「土地なし」のはずの東京メトロは、多額の地方税を払っているのか。
プリンスホテルなど不動産事業に力を入れてきた西武ホールディングスなど、保有する都心部の不動産を利活用したビジネスで収益を上げる鉄道会社も少なくない。
2025年3月には、JR東日本が手掛ける、大規模再開発事業「TAKANAWA GATEWAY CITY」が開業する予定で、非鉄道事業での収入拡大が業界でのトレンドになることは間違いない。労働生産人口が減少していく日本社会では、どの鉄道事業者も運輸事業の頭打ちが必至だからだ。
東京メトロもその例外ではない。「非鉄道分野をどれだけ育成していくかが東京メトロの課題」。いちよし証券の宇田川克己銘柄情報課長はそう指摘する。
中期経営計画の中で「不動産事業の拡大」を重点施策に挙げている東京メトロ。しかし、不動産をほとんど持っていない現状で、今後どのように事業を拡大していくのか。
次ページでは、多額の地方税を納めている“カラクリ“を財務諸表、各種統計データから明らかにし、東京メトロの不動産事情に迫る。