ARTは世界最大の鉄道車両メーカーである中国中車股份有限公司(CRRC)が開発した輸送システムで、見た目はLRTと変わらないが、蓄電池や燃料電池を動力に用い、道路に設置した磁気マーカーや白線に沿ってゴムタイヤで走行する。LRTと同等の輸送力を、BRT(バス高速輸送システム)並みのコストで実現できるというのがうたい文句だ。
山梨県はこれを「富士トラム」(冒頭写真)と仮称するが、実態としては三連接車体のEVバスと言えるだろう。結局、EVバス(または燃料電池バス)専用道化を主張する富士吉田市や富士五湖観光連盟、反対派市民団体と変わらない内容になった。それでは、これにて一件落着となるかというと、そうでもない。
ARTは軌道法の対象になると
主張せざるを得ない県の事情
富士山登山鉄道構想の出発点は、2013年の富士山世界遺産登録にある。世界遺産委員会は登録にあたり、富士山の保存管理にさらなる対策や改善が必要と指摘したが登録後、来訪者は2倍以上に増加し、環境負荷が増大していた。
そこで、LRT整備と一般車両・大型バスの通行規制で輸送量をコントロールし、夏季に集中する観光需要を分散。あわせて冬季の観光開発を進めるというのが計画の骨子だったが、山梨県は一貫して「軌道法による軌道」であることにこだわった。
そもそも大量輸送を目的としないのであれば、輸送モードはEVバスで十分だった。しかし、山梨県は「道路法、道路交通法では、法令に規定された理由がない限り自動車の通行を規制することはできない」ため、来訪者のコントロールが不可能として、スバルラインのバス専用道化は不可能との立場を崩さない。
それに対し「軌道法では、道路におけるLRTの通行が優先される」ため、自動車の乗り入れを禁止できるというのが、鉄道としての整備を推進する理屈だった。この主張自体、本末転倒しているとしか思えないのだが、それはともあれLRTを断念した後も、この姿勢を崩すことはできない。
長崎知事は18日の記者会見で「これら磁気マーカーや白線は法律上も軌道としてみなされるため、(ARTにも)軌道法を適用」できると主張したが、LRT整備を所管する国土交通省鉄道局幹線鉄道課に聞くと、「富士トラム構想は報道で知ったが、山梨県から導入計画や仕様を聞いていないので、軌道に該当するか現時点では判断できない」と戸惑っている様子。
かつてのトロリーバスのように、案内軌条など物理的なガイドウェイが存在しなくても軌道に該当する可能性はあるが、ようやくLRTとBRTが認知されたばかりの日本で、両者の中間に位置し、検討事例すらないARTの扱いは未定だ。