人がいる場に飛び込まなければ
「出会い」なんてない

――『婚活マエストロ』を読んで、「出会い」について改めて考えさせられました。婚活という出会いの場で、ちょっとしたきっかけで良い関係になったり、その場かぎりの関係になったりする。宮島さんは出会いの価値をどう感じられていますか。

 まず、書いていて思ったのは、一つの出会いがどういう結末に至るかは、出会った時点では分からないということ。人が人と出会って以降、色々な分岐が生まれますよね。どの分岐をたどるかによって人間関係も変わってくる。

 ところが、小説にはそれらのうち一つの分岐しか描けないわけです。それってすごく責任重大だなと思っていて。ケンちゃん(=『婚活マエストロ』の主人公・猪名川健人)と婚活業界で働く女性・鏡原さん(=作中の鏡原奈緒子)、最初の出会いがあって、そこからどう変わるのか。作家業はそれを選んでいく作業だなっていうのをすごく感じています。

 出会いがどこへ向かうか。小説は、無数の可能性の中から一つを選びださなきゃいけない。現実も、実はそうじゃないですか。現実だって一つしか見えない。その「一つの結果しか見られない」というのが面白いなと思っています。

――確かに……。一方で、過去を振り返ると「あの時アレがなかったら今はないよね」という話もありますね。

「出会いが全然ない。どうしたらいい?」→人気作家の答えが火の玉ストレートだった!『婚活マエストロ』(文芸春秋)

 そうそう。そういうのが重なることが、面白いと思う。社会人ってよく、「出会いがない」って言うじゃないですか。婚活パーティーみたいなものは出会いの数をリアルに増やす場です。そういう場に自分から動いて飛び込んでいかないと、出会いなんて生まれないよなって思います。

 この作品のケンちゃんも、アパートの大家・田中宏の誘いを受けてそれに応じなかったら、もうそこで終わっていたわけで。田中宏について行って、婚活関連の記事を書くことになった。で、そこで鏡原さんに出会って、婚活の世界にのめり込んでいく。

 出会いって、自分から取りに行かなきゃいけないものっていうことですよね。私はそれをすごく実感しています。

 私自身が、小説を書いたことでたくさんの出会いを得ましたから。小説家になって出会った人が何百人といる。そういう意味でも「出会いには行動が伴う」という感じがします。