ちなみに米NBCの報道によれば、アメリカでも昨年だけで約4万人が「豚の屠殺」の被害に遭い、総額35億ドル以上が奪われているという。
タイ警察サイバー犯罪対策班のブリンスチャートによれば、サイバー犯罪は増える一方で、その多くでは貴重な個人情報が盗まれている。アメリカやヨーロッパの会社が設定している個人情報保護の仕組みが犯罪組織に悪用されるケースもあるらしい。
「利用者のプライバシーや人権を守るための仕組みやウェブの閲覧環境を最適化する技術が、かえって犯罪行為を見えにくくしている可能性がある」と彼は言う。
サイバー詐欺の国際的ネットワークとの戦いは続いているが、効果的な取り締まりは難しい。組織の仕組みは複雑で、指揮命令部門と詐欺の実行部隊は別々で、資金洗浄のシステムも別にあるからだ。
実行部隊の中心人物を逮捕しても、代役はいくらでもいる。そもそも首謀者は外国に潜んでいることが多いから、タイの捜査当局が彼らを特定するのは難しい。捜査線上に浮かぶのは、たいてい仮想通貨の口座名義人や換金・送金の実行役くらいだ。
もちろん、数は少ないが成功例もある。例えば、タイ警察はIT企業との密接な連携の下で、ある中国系犯罪組織のネットワークを粘り強く追跡し、首謀者を特定して約10億(3000万ドル)の資産を取り戻すことができた。
だから欧米の大手IT企業には、ASEAN(東南アジア諸国連合)の諸国に暮らす一般市民を犯罪から守るためにもっと手を貸してほしい、とブリンスチャートは願う。
「これらの詐欺組織の拠点を特定して解体するにはアメリカや中国の捜査当局、企業との国際的な協力をもっと強化する必要がある」