友人の友人に勧誘され、金欲しさからミャンマーに渡ったナリンだが、到着した途端に何の仕事か気付いた。しかし身の危険を感じて逃げることもできず、罠にはまったのだと観念した。ナリンの役割はネット上でカモを見つけ、詐欺のネットワーク宛てにお金を送らせることだった。
ショッピーやラザダといった東南アジア系ネット通販企業の従業員に成り済まし、買い物ポイント詐欺を行うことも多かった。
いわゆる「ロマンス詐欺」にも手を染めた。別の人間に成り済まして相手に言い寄り、相手の恋心に付け込んで最終的には金銭を詐取する犯罪行為だ。
タイ警察のタトチャイ・ピタニラブート総監補によれば、「魅力的な写真を使い、言葉巧みに自分を信用させ、被害者に恋心を抱かせる。その上で、うまそうな投資話を持ち出す」のが典型的な手口だ。
ナリンによれば、ロマンス詐欺のターゲットは主として30歳以上だ。別の種類の詐欺では、オンライン通販をよく利用する女性や、20歳から25歳の若者がターゲットになる。
「若い被害者なら金銭的な損失からも立ち直れるだろうが、高齢者の場合は老後の資金を奪われてしまい、人生が破綻してしまうケースもある」。
タイ警察サイバー犯罪対策班のジェサダ・ブリンスチャートはそう言い、こう付け加えた。「事案はそれほど多くないが、影響が深刻なのでメディアでも大きく取り上げられる」
SNS運営会社も「共犯」
ブガンという60歳の女性は、1年以上かけて綿密に仕組まれたロマンス詐欺の餌食となった。フェイスブック上で詐欺師と出会ったのは2018年のこと。気が付けばマレーシアの石油パイプライン・プロジェクトという架空の儲け話に引きずり込まれていた。
そして550万バーツ(16万5000ドル)の越境譲渡税を出してくれれば100万ドルが手に入ると言われ、19年12月に送金したという。その1カ月後、詐欺師は音信不通になった。それでブガンは真実に気付き、慌てて警察に通報した。