タイ警察サイバー犯罪捜査局の統計によると、過去2年半の詐欺やサイバー犯罪による損失は総額20億ドルに上り、さらに増え続けている。

 こうした事態を受け、タイとカンボジアの捜査当局はサイバー詐欺の取り締まりで連携を強化している。3年前からサイバー犯罪と戦っているピタニラブートも最近、カンボジア当局との共同捜査に参加した。

「サイバー犯罪の数が増えているのは、街頭で人から金を強奪するよりも簡単で安全だからだ」と彼は本誌に語った。「SNSの普及も、こうした犯罪を容易にしている」

 タイでの捜査状況からは、こうしたサイバー詐欺の背後に中国系の国際的な犯罪グループが潜んでいることが分かる。彼らはタイ人の共犯者を使い、タイ警察の手を逃れるためにカンボジアなどの近隣諸国に拠点を構えることが多い。

「連中が国境を越え、別の国に滞在している限り、こちらの警察は手を出しにくい。タイに連れ戻すのは容易じゃない」。ピタニラブートはそう言った。

実行犯が手口を暴露...東南アジアが拠点、アメリカで4万人が騙された「豚の屠殺」詐欺とは?タイの捜査当局が踏み込んだサイバー詐欺の拠点 ROYAL THAI POLICE

 タイの捜査当局は詐欺グループが使う携帯電話の信号に狙いを定め、通信事業者やインターネットのサービスプロバイダーなどの協力を得て、彼らがどこからタイの被害者に連絡しているかを探っている。

 SNSの運営会社が、犯罪組織の使う出会い系サイトから広告収入を得ている可能性もある。ピタニラブートは本誌に、そうした運営会社や送金に関与した銀行も「捜査の対象になり得る」と述べた。

 またタイ当局はカンボジアにいる犯罪組織のメンバーに対して165通の逮捕状を出しており、現地の警察および裁判所に捜査協力を要請している。

 冒頭で証言したナリンは、タイに戻ってから人身売買の「被害者」としての認定を受けようと試みたが、うまくいかなかった。「詐欺師たちは法律の抜け穴に精通しており、人身売買被害者救済法を利用して罪を逃れようとすることがある」と、タイ移民局の担当者は本誌に語った。