背中合わせの2人の女性写真はイメージです Photo:PIXTA

大切な人の死後に待っているのが、相続手続きだ。心身ともに余裕がない中でもきちんと相続手続きを踏まずにいると、思わぬ損失を生むことがある。その対策法を、「1円も相続できず嫁姑関係にヒビが入ったケース」と「自宅の土地を1500万円で買う羽目になったケース」の2例をもとに、専門家が解説する。※本稿は、澤井修司『あるある!田舎相続』(日刊現代)の一部を抜粋・編集したものです。

息子の妻が実家の財産を相続
姑に「家賃を払ってください」

 荒井家には崇と聖子の夫婦、そして一人っ子の久、妻の眞須美、その子どもが2人住んでいます。崇が80歳で亡くなると、聖子は「どうせいずれ久に相続させるんだし、何度も相続手続きを取るのは面倒くさいし、費用もかかるから」と、自分を飛ばしてすべての財産を長男の久に相続させることにしました。久も「何かあったら母さんの面倒を見るよ」と言ってくれていたので、聖子は安心していました。

 実家の名義は久になりましたが、聖子はそのまま同居。また、遺族年金もあるので、生活に困ることはありませんでした。

 ところがその2年後、久は進行性のすい臓がんを患い、あっという間に亡くなってしまいました。聖子は、まさか息子の久が先に死ぬとは想定していなかったのですが、「久が死んだら崇が相続した家は、自分に戻ってくるだろう」と、何となく思っていました。

図:荒井家同書より転載 拡大画像表示

 しかし、そうはならなかったのです。法定相続分は、妻の眞須美が2分の1、久と眞須美の子どもが2分の1。聖子は法定相続人ではありませんから、崇の遺した家が自分に戻ってくるどころか、1円も相続できないのです。

 それでも、聖子は今まで通り自宅で暮らせると思っていたのですが、しばらくすると、久の妻の眞須美から驚くべきことを言われました。

「お母さん、この家に住むなら家賃を払ってください」

「えっ! ど、どういうこと?」

「ここは私が久さんから相続した家です。久さんが亡くなって収入が激減したのに、子どもたちの学費がかかるから大変なんです。だから、いくらか家賃を入れてください」