そんななかで、母のひとみが亡くなりました。住子は、土地はひとみ名義だと知っていましたが、てっきりこのまま住めると考えていました。ひとみの子どもであるあみとゆみ、それに真凜が法定相続人だとわかっていましたが、住子は遺産分割協議で特に財産を要求せず、ひとみ名義の土地も財産も、あみとゆみが相続することになりました。

 ところが、住子のもとにある日、義理の姉2人から内容証明郵便が届きました。不審に思いながら開けてみると、「地代を払ってほしい」とのこと。義理の姉たちの言い分は、「私たちの土地の上に勝手に家を建てて住んでいるのだから、当たり前でしょう?」「先祖代々受け継がれてきた私たちの土地で、赤の他人がなぜ、のうのうと暮らしているの?」――住子からすれば、とんでもない言いがかりです。双方、弁護士を入れてもめにもめました。

 結局、住子の長女の真凛が安定した収入を見込める看護師だったため、1500万円を銀行から借り入れて、土地を義理の姉たちから買い取りました。1500万円を支払う当日のことです。あみとゆみの弁護士と、住子の弁護士立ち会いのもと、銀行に融資を実行してもらいました。そのとき、真凛の目から大粒の涙がこぼれ落ちました。

トラブル回避のために
権利はきちんと主張すべき

書影『あるある!田舎相続』(日刊現代)『あるある!田舎相続』(日刊現代)
澤井修司 著

 母のひとみが亡くなれば、明夫の妻の住子は相続人ではありませんが、住子の子どもは立派な相続人です。相続人として遺産分割協議のときに、自宅が建っている部分の土地の権利だけでも主張したほうがよかったでしょう。せめてそれだけでも子どもが相続しておけば、こうしたトラブルは避けられたはずです。

 この事例で住子と真凛の母娘は、できたはずの主張をしなかったがゆえに、1500万円を支払う羽目になってしまいました。いくら安定した収入がある看護師とはいえ、26歳という若さで1500万円の借金を背負うことになったのは、気の毒です。