親が相続対策しないまま亡くなると、残された家族や子どもは、膨大な手続きに苦労したり、争族に巻き込まれたり、相続税が払えなかったり…と、多大な迷惑をこうむります。本連載では、知識のない親御さんでも、ステップ式で5日で一通りの相続対策ができる『子どもに絶対、迷惑をかけたくない人のための たった5日で相続対策』(ダイヤモンド社刊)を出版した税理士の板倉京さんが、最低限やっておくべき相続対策のポイントを本書から抜粋して紹介していきます。

【税理士が教える】他人ごとではない! 遺産争いの8割は遺産額5000万円以下の家庭で起きている理由Photo: Adobe Stock

「うちには相続争いは起こらない」は大きな勘違い

「うちには大した財産もないし、子どもたちもいい子で仲がいいから、相続対策なんて必要ない。自分が死んだら、法定相続分通り分ければいい」。

皆さん、このセリフをどう思いますか?「その通り!」と思う方も多いのではないでしょうか。実際私も、このようなセリフを何度も耳にしてきました。
でも、正直言って、このセリフは「ツッコミどころ満載」です。

「財産なんてそんなにない」ほうが危ない!

遺産争いをするのは、財産がたくさんある家だけ、と思っている方は多いです。でも、実は遺産額が少ないほうが遺産争いになりやすいという統計があります。
2023年に起こった相続争いの調停・審判は1万3872件。

このうち遺産分割を巡る争いでは、【遺産額1000万円以下の家庭】が33.9%、【1000万円を超えて5000万円以下の家庭】が43.6%と、「争族」の8割近くが遺産5000万円以下の家庭で起きているのです。

財産が少ない家のほうが遺産争いが多い理由はいくつか考えられますが、その一つは「資産家は相続対策が必要だと考え、実行している人が多いが、財産が少ない人は相続対策が不要だと思い、放置している人が多い」からだと私は思っています。

「子どもたちはみんないい子」でも、割り切れない想いはある

小説やドラマなどでみる相続争いは、「自分勝手で欲張りな誰かのせいでトラブルになった」というように描かれることが多いですよね。でも、実際は、全員が「いい人」であったとしても、遺産分割は揉めるものなのです。

たとえば、3000万円の現金を3人で分けようとした場合、赤の他人同士なら、1000万円ずつ分ければ、誰も文句なくスッキリ解決でしょう。「法定相続分通り分ければいい」という考え方は、赤の他人同士なら問題なしだろうと思います。

しかし、これが相続財産で、家族で分けるとなると、問題はそんなに簡単に解決しません。
「姉さんは昔から親にかわいがられて、えこひいきされていた」。
「弟は家のことなんて何もしないで、親の面倒は全部姉の私にやらせていた」。
「兄さんの子の学費を、父さんが出していた」。

……などなど、わり切れない想いが、各人にあるものです。

これらの言い分や想いを加味しながら、誰がいくらもらうのが「正解」なのかを決めていくのは大変な作業です。他人にはうかがい知れない複雑な感情、長い歴史が、家族の間には脈々と流れているからです。

こういった想いも整理しながら行う遺産分割は「法定相続分で!」などと簡単にはわり切れない、辛い作業です。

面倒で辛い作業を、先延ばしにしない

そもそも、何故、自分の財産の分け方を決めるのが億劫なのでしょうか?
「正直言って面倒くさい」と思っているからではないでしょうか?

自分の財産の全容と価値を把握して、みんなが納得するような公平な分け方を決めるのは確かに面倒くさい作業です。しかも、そんな思いをして決めた分け方に家族が満足せずに、文句を言われたら……。そりゃあ、「自分が死んだら法定相続分でもなんでも、適当に分けてくださいよ!」と言いたくなる気持ち、わからなくもありません。
でも、自分が面倒くさいと放置してしまえば、それを自分の死後、家族がやることになるのです。

財産の全容を把握するのも本人でなければわからないことだらけ。しかも、遺産の分け方も、もらう人同士の話し合いで決めるのはさらに困難でしょう。
相続対策がされておらず遺言書もなかったばかりに、相続争いになり、仲の良かったきょうだいが絶縁状態になったご家族を無数に見てきました。

財産の持ち主として、親として、残される家族が死後もずっと仲良くいられるように、是非準備していただきたいと思います。

*本記事は、板倉京著『子どもに絶対、迷惑をかけたくない人のための たった5日で相続対策』(ダイヤモンド社刊)から抜粋・編集して作成しています。