毎朝、駅のトイレは満員。通勤通学時に、急な便意に見舞われてあやうく…という経験をした人は多いだろう。そこに浮上するのは、「仕事や学校が始まる月曜日のことを考えると憂うつ」「大事な会議や試験の前は緊張して不安になる」などに起因する、「腸と脳」の連携だ。また、腸には他の臓器にはない機能があった――腸ってこんなにスゴかった。本稿は、坪井貴司『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。
緊張やストレスがお腹を直撃
脳と腸はつながっている!?
イライラしていると胃が重く感じたり、緊張や不安でお腹が痛くなったり緩くなったりすることがあるように、ストレスや感情がお腹の調子に影響を与えることはよくあります。一方で、便秘が続き気分が滅入ったりすることがあるように、お腹の調子が気分に影響することもあります。お腹と脳が相互に影響を及ぼし合っていることを、日常で感じる機会は多いのではないでしょうか。
これはまさに脳腸相関(中でも腸から脳へ情報を伝えるしくみについては、腸脳相関)と呼ばれる現象です。脳腸相関とは、簡単にいうと、腸と脳がお互いに密接に影響を及ぼし合うという概念です。腸と脳はどちらも生物にとって重要な器官ですが、その間につながりがあって、相互に情報を伝えているということは、どのようにして明らかになっていったのでしょうか。
「仕事や学校が始まる月曜日のことを考えると、気分が憂うつになる」「大事な会議や試験の前は、緊張して不安になる」「満員電車に揺られて職場や学校に行くことを考えるだけで気が滅入る」ということはよくあります。ストレスを感じると、胃が痛くなったり、突然お腹が痛くなり、ゴロゴロと鳴り始めたりするのです。
朝、会社や学校に向かう満員電車に乗っているときに腹痛に襲われ、次の停車駅で飛び降りたはいいけれど、なぜか駅のトイレはいつも朝に限って混んでいて、やっとの思いで事なきを得た、という経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
前の日に冷たい飲みものを摂りすぎていたり、脂分の多いものを食べすぎると、健康な人でも下痢や腹痛が起こることがあります。症状が一時的なものであればよいのですが、何度も腹痛や下痢に襲われると、すぐにはトイレに行けないという状況を想像しただけでストレスを感じ、状態がさらに悪化して腹痛や下痢が長期間続くようになってしまうのです。ひどくなると、外出することすらできなくなる場合もあります。
約200年前の事故がきっかけで
ヒトの胃腸の働きが明らかに
ではなぜ、ストレスを感じると腹痛や下痢が起こるのでしょうか?順を追って見ていきましょう。