元気で体力もあった70代が
ぶつかる“80歳の壁”

 80歳前後になると、高齢期とはいえまだ元気で意欲・体力もあった70代までと同じ暮らしはできなくなる。加齢にともなう病気、事故や転倒による骨折・障害などで、生活の不自由さが増す。車の免許証も返上し、人との交流も減っていく(その時期が、病気や事故でもっと早く始まる人もいるが)。

 コロナ禍で見られたように、この方向への移行は、短期間にあっという間に進み、生き方や考え方も変わってくる。そうした例を挙げてみよう。

 私は2014年から現在まで10年ほど、隔月で開かれる高齢女性の集い「Hカフェ」に参加し続けている。人数は、参加者の入れ替わりはあるものの、毎回15人ほど。ひとり暮らしの人もいれば、夫婦二人暮らしの人もいる。

 初回に70歳前後だった人たちも、すでに80代。そんな変化のなかで、それぞれの「老いの体験」や「倒れたときへの備え」などが語られる。

 そのなかでしばしば出るのが、「80代と70代は違う」「“80歳の壁”は確かにある」という言葉で始まる、自分の年齢観(感)(「老い観(感)」ともいえる)の変化に関するものである。

AUさん(83歳)「コロナですっかり、体力が落ちて、何をするにもしんどい。70代はごまかしが利くけれど、80代になるとごまかしが利かない。70代はいろんなところに出かけていたのに、いまは出るのが億劫。歩くのもしんどい」

BKさん(82歳)「これまでずっと元気だったので、病気したときのダメージ、ショックが大きかった。そうなると、80まで元気で生きてきたんだから、もういいかとか。ジタバタするまい、何もかも面倒とか。気持ちが70代とは変わってくる」

親が80代になると
親子関係にも変化が

CYさん(81歳)「80歳を過ぎて、歳の重みが変わるのを実感しています。いろんな会合に出ても私が最年長。自分の立ち位置を考えて『ここに出させてもらっていいのかしら』『あまりしゃべらないようにしよう』とか、思うようになりました」

DBさん(84歳)「私は主人が亡くなって半年あまり落ち込んで、食欲もなくなって、外出もしなくなって。そうなると、ほんと余計なひがみ感情みたいなものが次々と浮かんできて、『娘はひと月に一度しか来ない、寄りつきもしない』とか。自分がそんなふうになるなんて、70代には思いもしなかった」