車椅子を押す女性写真はイメージです Photo:PIXTA

ひとり暮らしをしている老齢の親は「子どもの世話にはならないから」と口にするが、将来の介護のことなどを具体的に考えている様子はなく、50、60代の子世代は戸惑うばかり。しかし、まだまだ元気なつもりで能天気に構えていると、突如として壁にぶち当たる時が必ずくる。「超長寿化」が進むいま、高齢者を取材し続ける社会学者がシビアな現実を伝える。本稿は、春日キスヨ『長寿期リスク 「元気高齢者」の未来』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

80代になった親の生き方に
戸惑う子世代たち

 ひとり暮らしの親がいる50代、60代の子世代女性たちから、戸惑いの声を聞くことが増えた。親の老いが進むが、これから先、倒れたとき、親はどうするつもりなのか。どこで、どう生きていきたいのか。親の考えがわからないと。

 80代でひとり暮らしの親がいる50代女性が2人、話していた。

「私の母は82歳なんですが、『これからどうするの』って聞くと、『大丈夫、あなたの世話にはならないから』って。でも具体的に聞くと何も考えていない。70代までは『まだ、そんなこと言わないで』ってすごく不機嫌になっていた。それがいまは、もう自分で何かしようという感じでもなくなって……」

「私の母はシングルマザーで頑張ってきた人で、86歳。仕事も子育てもちゃんとしてきたといまでも自信満々。でも、耳の聞こえは悪くなるし、家はゴミがたまって汚れまくっている。だけど、ひとりで生きてきたっていう自負があるので、人の世話になることにすごい拒否感がある。これからどうするつもりなんですかねえ」

 子世代女性たちが親の生き方に戸惑うのも、理解できる。なぜなら、いまの高齢世代は、「老後はあなたの世話にはならない。しっかり勉強をして、自分の好きな人生を歩みなさい」、そう言って子どもを社会に送り出した親が多い。だから、子どもの側は(息子・娘にかかわらず)「親は老後をどう生きていくか、自分で考えているはず」、そう考えていてもおかしくはない。

 しかし、70代半ば過ぎ~80歳を超えた高齢の親世代の声を聞いていくと、親たちも、自分の老いと、これからどう生きていけばよいかについて、戸惑いを覚えている。