70代までは元気高齢者を自負してきた人たちだが、80歳前後からの病気、社会活動からの引退、配偶者の死、などの出来事や生活変化が、体力・気力の低下をもたらし、「老い」への負のスパイラルが進む事実が語られている。
さらに、そうしたなかで、「子どもの世話にならない」と言ってきたこれまでの「老後観」も揺らぎ始める。これまでの「世話をする立場」から「世話される立場」へと、子どもを頼る気持ちが強まっていく。そして、親子間の微妙な駆け引きも含め、親子関係も70代と異なるものになっていく。「Hカフェ」で語られた例を挙げよう。
「子どもがいるのが、70代ぐらいまでは面倒くさいなあと思っていたんですが、80歳を過ぎると、子どもがいてくれるありがたさをすごく感じます。子どもがいると、ついつい頼る。80歳過ぎたら、特にそう思いますね」
「子どもの世話にならない」と
言いながら本当は世話になりたい
「友人が娘さんを試したわけ。ケア施設の申し込み資料を取り寄せて、『この施設に入ろうと思うから』と、娘さんに言ったというのよ。
そしたら娘さんが、保証人になってくれたんだって。本当は絶対に断ってほしかった。『母さん、やめなさい。弟もいるから、私たちがみるから』って。本人は娘を試しただけだったから。
子どもの世話にならない、なれないと言いながらね、本当は世話になる気、十分なんよ」
ところで、この人たちの声を、私たちはどう聞けばいいのだろうか。
春日キスヨ 著
国は、現在の日本の高齢者は、10~20年前の高齢者と比べ、加齢にともなう変化が5~10年遅れ、「若返り」現象が見られ、65~74歳までは元気な人が多いという報告結果(日本老年学会・日本老年医学会「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」〔平成29年〕より要約)にもとづき、国を挙げて「健康寿命の延伸」を目標に、「介護予防」政策を推し進める。
だが、この調査結果と考え合わせると、「Hカフェ」に集まる高齢女性たちの会話からは、栄養に気をつけ、運動や社会活動に活発に励むことで、70代前半までは元気を維持できたとしても、70代後半から80歳前後になると、加齢にともなう「老い」が避けられない事実が見えてくる。
本章冒頭の、50代の子世代女性が語る80代母親の「『これからどうするの』って聞くと、70代までは不機嫌になっていた。それがいまは、もう自分で何かしようという感じでもなくなって」という状態も、その事実を示すものだろう。