「書店員が選ぶノンフィクション大賞2024」を受賞した『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)や『「好き」を言語化する技術』(ディスカヴァー携書)がベストセラーとなっている文芸評論家・三宅香帆氏。三宅氏は2023年と2024年のビジネス書年間ランキング2年連続1位を獲得した『頭のいい人が話す前に考えていること』を読み、「そうか、本書の語り口こそが、頭の良い人の話し方なのか!」と驚かされたそう。三宅香帆氏に本書の魅力を寄稿いただいた(ダイヤモンド社書籍編集局)。

頭のいい人が話す前に考えていることPhoto: Adobe Stock

「頭が悪いと思われないこと」が重要視されている日本

「頭が良くなりたい、というのはどういうことなのだろうか」と考えることがある。

 たとえば初対面の人と会議をする時、以前からぼんやり知っていた人の講演に参加した時、あるいは飲み会でたまたま知り合った人と話す時。どんな場面で「この人、頭がいいな」と思うのかと考えると……少し答えに詰まってしまう。

 では、自分は頭が良いと思われたいのだろうか? そう考えてみると、これもまた言葉に詰まる。しかし、初対面の人に「あなたは頭が悪いですね」と言われたり(そんな失礼な人はいないだろうが)、内心そう思われたら悲しい。つまり自分は結局「頭が悪いとは思われたくない」のだろう。では、なぜそんなふうに感じるのか?

 ひとつだけ確かなのは、「頭が悪いと思われたくない」と感じる人が多いのは、日本のコミュニケーションに根深い問題があるからだ。特に今、日本でベストセラーとなっている本書は、「頭が悪いと思われないこと」がいかに重要視されているかという切実な現実を示している。

本当の意味で頭が良いと思われるためには

 前置きが長くなったが、本書『頭がいい人が話す前に考えていること』は、ビジネスマンだけでなく、大人から子どもまで、誰もが実践できる内容になっている。

 たとえば、人から質問された時にどのように返事をすればいいのか。客観的に考えられる人だ、と思われるためにはどんな思考が必要なのか。言葉を整理して伝えるためにはどうすればいいのか。

 本書は、こうしたテーマを本当に丁寧に、やさしく解説してくれる。読んでいると「そうか、本書の語り口こそが、頭の良い人の話し方なのか!」と驚かされる。そして本書は、誰のことも決して見下さない。その姿勢にこそ、伝わる頭の良さがあるのだ。

「頭が良くないと思われたくない」という気持ちから、他者に攻撃的になったり、蔑んだりしてしまう人も少なくない。しかし本当の意味で頭が良いと思われるためには、むしろ他者を尊重することが大切だと本書は教えてくれる。

 本書の語り口は、丁寧に、やさしく、伝わりやすい。自分のことで頭がいっぱいになった時、言葉がうまく出てこなくて苦しい時、あるいは自分の話し方に自信が持てない時――。本書を読めば、コミュニケーションの基本である「目の前の相手にリスペクトを持つこと」を思い出させてくれるだろう。

 だからこそ、本書は今後も多くの人に手に取られ続けるに違いない。

【そりゃ売れるわ】文芸評論家が驚いた「頭がいいと思われる人」だけがやっている意外だけど本質的なこと
三宅香帆(みやけ・かほ)
1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。
著作に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』、『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』、『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない―自分の言葉でつくるオタク文章術』、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』、『人生を狂わす名著50』など多数。