「どっちがいいと思う?」と聞かれたときに、どのように答えるか。両方肯定して「どっちもいいと思う!」か、それとも素直に「こっちがいいと思う!」だろうか。この答え方それによって相手からの信頼度が変わるとしたら、ぜひ最適解を知りたいと思うのではないだろうか。2023年と2024年の年間ベストセラーランキングビジネス書部門で2年連続1位(日販/トーハン調べ)となり、「いま、流行りの自己啓発本かぁ、と思って手に取ったことを反省しました」「あとがきで泣けた」などと反響を呼び続けている『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏は本の中でパートナーの服選びを例に答えている。本記事では本書の内容をもとに解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
「どっちがいい?」の罠。よくある失敗パターンとは
パートナーから「この服とこの服、どっちがいいと思う?」と聞かれて戸惑う男性。「どっちも似合うと思うよ」と答えて、パートナーの不機嫌を買う。このようなシーンは、ドラマや漫画だけでなく、実生活でも頻繁に起こる。
筆者の知人の中には、「ああやって聞かれたときになんて答えるのが正解かわからないから、女性と一緒に買い物に行くのがちょっと苦手」という人もいた。
「思った通りに伝えたらいいんじゃないの?」と投げかけたのだが、そんなに単純なものでもないらしい。
はたから聞いていて、とりあえず「どっちでもいいと思う」とはあまり言わないほうが良いのはわかる。
筆者も家族に、食事について2択で提案したときに「どっちでもいい」と言われ、なんとなく嫌な気持ちになった経験があるからだ。
そのときは理由がよくわからなかったが、今考えると「どうでもいい」と言われているように感じたのだと思う。
このように意見を求められるシーンは、家庭内はもちろん、仕事でも起きる。一体どのように答えるのが正解なのだろうか。
「どっちがいいと思う?」への意外な回答
安達氏も「この青い服と白い服、どっちがいいと思う?」といった類の質問を、これまでにも何度かされたことがあるそうだ。
しかし、自分の好みで「白がいいと思う」などと答えると、少し妻は不機嫌になるのだという。
そこで、安達氏は最も適切な回答として挙げたのは、「白と青、それぞれ、どこがいいと思ったの?」と尋ねることである。
このように答えた場合、一体どんな会話が展開されるのだろうか。
夫「白と青、それぞれどこがいいと思ったの?」
妻「こっちの青いほうはデザインが好きなのだけど、そっちの白いほうが今度行く旅行先には合っているかと思って……」
夫「率直に言って、どっちがいいと思ってるの?」
妻「青いほうが好きだけど……」
夫「今度行く場所なら、青でも良いと思うし、いろいろな場所で青は使いやすいと思うよ」
妻「そっかーありがとう!」(P.84)
この答え方と、「好きな色」を答えた場合、何が違うのだろうか。
安達氏は、なぜ好きな色を素直に答えたら不機嫌になったのか、妻に聞いてみた。
すると、妻は「私のことちゃんと考えてくれていない気がしたから」と答えたという。
「ちゃんと考えてくれている」と思わせるには
好みの色をポンと答えた場合よりも、「何に使いたいのか」「何がネックになっているのか」といった会話を通じて、「どちらの服が最適か」を深めていくことで、自分の悩みを一緒になって考えてくれていると感じられたのだろう。
だから、妻は「この人は私のことをちゃんと考えてくれている」とうれしくなったのだと思う。
こうしたやりとりを通じて、人は相手に信頼感を持つようになる。
これは仕事の面でも同じことが言えるだろう。
取引先に「どっちを選択したら良いと思う?」と尋ねられたときに、相手が何に困っていて、どのように問題を解決したいと思っているかを考えて会話ができるかどうかが大事なのだ。
ここで必要とされる頭の良さは、知識量ではない。コミュニケーション能力のように、他者の思考を読み、信頼を得て他者を動かす能力だ。
安達氏は、次のように注意喚起する。
みなさん、もうおわかりですね。
これこそ“賢いふり”です。(P.85)
こうして見ると明らかにとんちんかんな回答だなと思うが、仕事においてはこのような「知識の披露」で終わってしまっている人は、意外といるのではないだろうか。
自分もそうなってしまっていないか、気をつけたいところだ。
優秀なだけでは継続的な仕事は得られない
安達氏は継続して仕事を頼まれるような関係性の構築について、次のように語る。
信頼が生まれる瞬間の心情はこうです。
“この人、我々のためにちゃんと考えてくれているな”
相手がこの心情になったとき、信頼が生まれ、長期的な関係につながります。(P.79-80)
逆に言うと、自分本位の仕事をしている信頼は生まれないし、継続的な仕事にはならないということだ。
例えば、不動産や保険など、ノルマがある商品を買おうとした際、「この人、ノルマのために売ろうとしているな」と感じたことはないだろうか。
すると、途端に不信感を抱いてしまい、その人から買いたくなくなった経験がある人も少なくないだろう。
相手のために、と思って会話できるかどうかが相手の心を動かす。このことを改めて胸においておきたいものだ。