周囲の大人に気づいてほしい
密かに苦しむ子どもの嗅覚障害

 前出の調査では、嗅覚障害がある患者では、そうでない患者と比較して、「以前より飲食を楽しめなくなった」「ガスや腐った食べ物などが(危険を判断できないので)怖くなった」「(食欲がないため)体重が変化した」と回答した患者が多く、嗅覚障害を合併している頻度が高い味覚障害の患者では「孤独を感じる」「怒りを覚える」「食べる量が以前より減った」と答える患者も多かったという。

 そんな状況下でも若年層は、自分からは声があげられず、親もあまり深刻に捉えないために、病院を受診できていないケースが多いのではないかと、森氏は心配している。

「病院を受診できているのはごく少数。多くは周囲に気付かれないまま、食が細くなって弱って行ったり、うつ状態になってしまったり、深刻な事態に陥っている子供がいるのでは、と推察しています」(森氏)

 そもそも他の感覚と比べ嗅覚は不遇だ。学校や地域の健診でも、嗅覚について調べられることは皆無なため、正常なときの自分の嗅覚のデータはわかりようがない。たとえば視力なら、小さい頃から毎年検査を受けているので、1.2がいきなり0.5になっていたら親も本人も異変に気づきやすいが、嗅覚の場合は比較検討できないため、発覚が遅れ、診断もつきにくいのだ。

 嗅覚の精密検査やその評価ができる病院も少なく、1県に1カ所もない地域もあるらしい。

「コロナから回復して、元気そうに見えていたとしても、嗅覚障害を起こして、悩んでいるかもしれません。周囲の大人が気づいてあげることが大切です」(森氏)

(取材・文/医療ジャーナリスト 木原洋美、監修/東京慈恵会医科大学 耳鼻咽喉科学教室 医局長 森 恵莉)