診断で重要なのは、障害の裏にある原因を突き止めることだ。
嗅覚障害の原因には、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、鼻の腫瘍、コロナウイルス感染症、インフルエンザなどなど多様な疾患があり、服用している薬が原因のこともある。
さらに大気汚染物質やシンナー、殺虫剤系のスプレー、家庭用の漂白剤が原因で嗅覚障害になることもあれば、最近は脳の疾患であるパーキンソン病やアルツハイマー病の一症状として嗅覚障害が起きて来ることもわかっている。
そのため森氏は、開業医が紹介状に詳細な経過を記してくれている患者であっても、初診では特に問診に時間を費やす。
「非常に専門的な知識が必要とされますし、それぞれをジャッジしていくのかは簡単ではありませんから」(森氏)
こうした綿密な問診に加え、濃度を変えた5種類のにおいについて、嗅いで感じ方の違いを調べる基準嗅力検査やCT検査を実施して、嗅覚障害のタイプや程度などを判断。診断がついたところで、初めて原因となっている病気の治療を開始し、症状の改善を目指す。
「におい」を取り戻す治療法は
実はそれほど多くない
ただ、裏に潜む原因の数に比べ、治療法のバリエーションはあまり多くはない。
「におい成分の通り道に問題があるアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎のような鼻の病気なら、飲み薬や点鼻薬などで炎症を鎮めて道を広げてあげる。副鼻腔炎を繰り返している場合や長引く場合には、鼻の手術を行なうといった感じです。
また嗅神経がダメージを受けているタイプには、自宅でできる嗅神経のリハビリをお勧めしています。12種類ある脳神経細胞のうち、嗅神経細胞は唯一再生能力を持っているので、嗅神経に刺激を与えることで再生をうながす効果が得られるのです。1年ぐらいで変化が感じられる患者さんが多いです」(森氏)
リハビリの方法は、バラ、ユーカリ、クローブ、レモンなど4種類のアロマの香りを朝晩2回、なんのにおいかを“意識しながら嗅ぐ”というもの。嗅ぐことが苦痛でなく、続けやすい香りを選ぶのがいいという。