「自らを高めてくれる“ライバル”という存在の捉え方は、この数十年で大きく変わりました」
「他人と比べるなんて無意味だ」「競争なんて必要ない」。そんな空気感が、今の時代には漂っている。会社や学校でも「誰かと競うこと」はほとんどなくなった。しかし本当に、「誰かと競うこと」には負の側面しかないのだろうか? 
そんななか冒頭にある主張を伝えているのが、金沢大学教授の金間大介さんだ。『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』といったベストセラーを著書に持つ、モチベーション研究の専門家である。「誰かと競うことの価値」を伝えた書籍『ライバルはいるか?』を発刊した同氏より、「2つのエンタメ作品に見る、ライバル関係の変化」について寄稿いただいた。

「バチバチ型」から「友だち型」へ。『ハイキュー!!』と『SLAM DUNK』に見る「ライバル観」30年の変化とはPhoto: Adobe Stock

30年で大きく変化した日本人の「ライバル観」

 突然で恐縮だが、大学生の中には漫画『ハイキュー!!』ファンがたくさんいる。
 青春スポーツモノだから、ファンはほぼ男子学生かと思いきや(『週刊少年ジャンプ』の連載だし)、女子学生もかなり読んでいる(あるいはアニメを見ている)。ファン層の男女比にほとんど差はない印象だ。

 2024年には劇場版も公開され、これがとてもヒットした。
 
主人公たちが所属する「烏野高校」と、そのライバル「音駒高校」との戦いが描かれている。舞台は「全国高等学校総合体育大会」、すなわちインターハイ。その3回戦として、烏野VS音駒の戦いが、上映時間ほぼすべてを使って繰り広げられる。

 一方、近年の青春スポーツアニメ劇場版のスマッシュヒット作と言えば、2023年の『SLAM DUNK』(スラムダンク)が記憶に新しい。

 主人公たちが所属する「湘北高校」と、そのライバル「山王高校」との戦いが描かれている。舞台は「全国高等学校総合体育大会」、すなわちインターハイ。その2回戦として、湘北VS山王の戦いが、上映時間ほぼすべてを使って繰り広げられる。

 こう書くと、何とも共通点の多い二作が2年連続でヒットしたことがわかる(上記の描写が酷似しているのは二作の共通点が多いからであって、決して僕の横着ではない)。

 どちらも、「アニメでここまで表現できるか!?」というレベルの圧倒的画力とアングルで、観ているものに100%の没入感を提供する。スポーツそのものの描写にはやや誇張があるものの、基本的に現実の(プロや各国代表の)試合で使われているプレーをもとに描いている点も共通している。そしてどちらも主人公は高校1年生。

 違う点と言えば、競技の種類(バレーボールか、バスケットボールか)、主人公の居住地(宮城県か、神奈川県か)、ファンの男女比(スラムダンクは男性ファンが多い印象)、そして何より、連載されていた時代だ。

 本稿は、この時代差に着目した上で、日本人のライバル観がどう変化してきたかを、『ハイキュー!!』と『SLAM DUNK』から紐解いてみよう。

30年前のライバル関係は「バッチバチ」

『SLAM DUNK』が連載されていたのは、1990年から1996年にかけてだ。他方、『ハイキュー!!』は2012年から2020年の間。つまり、スタート時で32年の差がある。32年と言えば、ちょうど日本人が子を持つ平均年齢に近い。

 親子ほどの年代差があるのに、上記の通り、多くの共通点があること自体が非常に驚きであり、考察を深めたい欲が刺激されるが、ここはより興味深い差異点の方に着目しよう。特に、僕が研究を深めている「ライバル」の描写は、2作の間で全くと言っていいほど異なる。