私立高校の助成では実績(パフォーマンス)評価にもとづく特別加算も行われるようになった。難関大学への進学、スポーツの全国大会出場、就職状況の改善などの実績を上げれば、助成が上乗せされるのである。こうして私立高校もいっそうの「経営努力」を求められるようになった。
学区の撤廃、入試期日の一本化、授業料無償化措置の拡大によって入学者獲得をめぐる競争的環境をつくり出す。そして、公立校の再編整備計画と私学助成の制度変更によって各校に「経営努力」を促す。このようにして学校同士の競争が加速されてきたのである。
公立校と私立校の切磋琢磨で
「大阪問題」は解決されるのか
公立高校と私立高校を一つの土俵の上で競わせる。この発想は、私立高校の授業料無償化措置の開始にあたって、2010年夏に橋下徹府知事(当時)が発したメッセージ「教育への私の思い」に示されていた。
メッセージの冒頭、知事は治安の悪化や失業などをはじめとする「大阪問題」を指摘し、それらの解決には教育への投資こそが必要だと説いた。さらに教育を「階層移転」(専門用語では「階層移動」。学力や学歴を身につけて生まれ育った家庭の階層から「上」の階層に移ることは上昇移動という)の「最も効果的なツール」だとし、「大阪問題」の解決と「階層移転」の促進のために中間層をターゲットにした施策が必要だと説いた。そうした施策の具体例が私立高校の授業料無償化措置だったわけである。
国の授業料無償化の目的は保護者の教育費負担を減らすことである。だが、大阪府では、授業料無償化措置は、他の施策との組み合わせによって、高校に「経営努力」を促す手段となった。メッセージで知事は次のように述べている。
この制度の導入によって、いよいよ、公私が切磋琢磨するための同一の土俵ができあがる。これからは、公立も私立も、誰が設置者かではなく、学校そのものが生徒や保護者から選択される存在でなければ生き残れない。もはや、「公私7・3枠」で生徒が入学してくるという状況は保障されない。大阪の学校勢力図は大きく塗り替わる。それぞれの学校が、徹底して自らの特色や魅力を高め、懸命にそれをアピールする。生徒獲得のために奔走する。こうした切磋琢磨が生じ、大阪の幅広い層、まさにボリュームゾーンの教育を担う学校の質が高まり、全体として大阪の高校教育の質が格段に向上すると確信。
(中西正人『大阪の教育行政--橋下知事との相克と強調』株式会社ERP)