また、イスラエルに武器を提供し続けてきたアメリカ、そもそも中東全域の不安定化の要因を作った帝国主義時代のイギリスやフランスに歴史的責任を問う姿勢もある程度理解できます。ただ、どうしても「ガザを守れ」の思いだけで突っ走っているように見える。

 ガザで新生児が飢え死にしているさまが映像でネットに流れていることも非常に大きいと思います。ただし、ガザだけではない。ハマスと連携し、イランが支援する「フーシ派」の軍勢が戦っているイエメンの内戦では、今なお新生児を含む市民が飢餓で次々と死んでいるのです。

 ハマスを植民地主義、占領と戦う解放の戦士とみなすのはどう考えても無理です。ガザの赤ちゃんもイエメンの赤ちゃんも飢え死にしてはならない。

 しかし中東全域で紛争は繰り返され、人権侵害、抑圧と支配は常態化している。さらに紛争と紛争が相互に関連もしている。赤ちゃんが餓死する事態になるまでに長く、ねじれた歴史のドミノが連鎖してきているのです。今すぐガザだけで赤ちゃんを助けることができるのでしょうか?はっきり言って、大人の世代は「もう助けられない」と諦めています。

チベットやウイグルでの民族迫害に
彼らは目をつむっている

 大学生たちには諦めてほしくない。場合によっては行きすぎた抗議行動があってもいいでしょう。ただ、「ハマスは見方によっては解放の戦士」「イスラエルがそもそも存在してはならない」という単純すぎる「正義」に飛びつくのはもったいないと思います。

 その「正義」の先には反ユダヤ主義に対する「一定の理解」が待ち受けています。反ユダヤ主義が再燃するとそこにはさまざまな陰謀論が便乗するので、もう制御ができなくなります。

 もう1つ、欧米の学生たちの抗議行動に難点があると思うのは、中国に対する認識へと広がっていないことです。本気で占領政策やジェノサイドを止めるのであれば、中国政府による新疆ウイグル自治区やチベットでの民族迫害も併せて糾弾しなくてはならないはずです。

 イスラエルがパレスチナを占領し、圧迫しているのと同様に中国がチベット、ウイグルを迫害しているのです。いや、むしろ中国ではチベットとウイグルの人口激減を試みる「民族浄化」さえ進んでいます。ガザ、イエメン、チベット、ウイグルを連結し、「抑圧を止めよ」と学生たちが自分ごととして捉え、イスラエルへの抗議行動のみならず、ファストファッションやサプライチェーンに中国による強制労働を含むブランドのボイコットを進めるのであれば、大いに賛同できます。