環境問題や人権侵害に声を上げ、大人社会の矛盾を鋭く批判するZ世代。しかし、一部の抗議行動が単純すぎる「正義」に傾倒しており視野が狭い点も課題だという。日米ハーフの国際ジャーナリストであるモーリー・ロバートソンが、独自の視点で国際問題に取り組むZ世代の活動を分析する。※本稿は、モーリー・ロバートソン『日本、ヤバい。「いいね」と「コスパ」を捨てる新しい生き方のススメ』(文藝春秋)の一部を抜粋・編集したものです。
大人社会に対して
強く抗議するZ世代
スウェーデンの若き環境活動家であるグレタ・エルンマン・トゥーンベリさんは世界的に有名ですが、彼女と同世代の欧米の若者たちは、「環境問題」「労働問題」「基本的人権」を蔑ろにしている大人社会へ強い抗議の声をあげていることで知られています。
特に先進国では若い人たちの社会的・経済的なチャンスがギグ(ネットで見つけた仕事を請け負う働き方や、その働き方によって回っている経済活動)化したことで、搾取の構造がより深刻なものとなって、彼らの選択肢が著しく制限されてしまっているという現実があります。没落していく中産階級だけではなく、貧困が世代間で世襲される「下層階級」とも言える人たちに依存する仕組みで、現在の私たちのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は成り立っています。まず、そこから目を逸らさないで、とグレタさんたちは訴えています。
この問題は国境も容易に越えます。世界中が中国の安い人件費や資源に依存していることによって、香港や新疆ウイグル自治区の人権問題について日本はもちろん、アメリカやEUもが表立って文句を言えずにきたダブルスタンダードにも繋がっています。
トランプ政権になって中国をスケープゴートにするべく、アメリカはやっと中国の諸問題をあげつらうようになり、バイデン政権に代替わりしても中国の軍事拡大や人権抑圧と対決する姿勢が超党派で堅持されています。しかし、時すでに遅しという側面もあり、グローバル化で推進された過剰な中国依存は日本国内やアメリカ国内の搾取の構造に跳ね返り、かえって格差を加速しています。つまり中国人の安い労働力を便利使いしてきたつもりだったのに、日本人が自分たちの賃金を下げてしまった、というブーメランです。
さらには、ロシアのウクライナ侵攻に対して西側諸国は団結し、強い経済制裁を課すことができましたが、中国が例えば台湾侵攻をした場合、足並みが揃わない可能性があります。中国に一度投資して、その果実に依存してしまったことには、各国が頭を悩ませています。