けっきょく8年半、最初の仕事は続けてたの。ちゃんと続けたかったしね。クスリをやれば、疲れずに仕事できたから……。それに、昼間ちゃんと働いてるからいいんじゃん、って思ってたんだよね。でもだんだんと、手に入れたのを知り合いにゆずってあげたりしているうちに、いつのまにか、売る側になってしまっていたの。このころは、ほしいひとにわたしてるだけなんだから、って思っていて、悪いことしてる感覚がたぶんなかったんだと思う。
あとになって、覚せい剤は、だれかにゆずったり売ったりする人間にも重い罪があるんだってことを知って、ほんとうに驚いたんだけれど、よく考えれば、私のしたことは、私と同じように、長いあいだクスリで苦しむひとを増やすことにつながっていたんだよね。
拘置所に入っても
またクスリを使ってしまった
いまの自分にできるのは、せめてそんなひとたちの話を聞くことだったり、いっしょにやめつづけていくことだったり⋯⋯そんなことしかできないけれど、これからもずっとつづけていくしかないと思ってる。
話をもどすね。そのあと、最初の職場を離れて自分で小さな会社をはじめたんだけど、けっきょく、クスリはやめていなかったんだ。
大げさに聞こえるかもしれないけど、どならないで話すお母さんを、初めて見たような気がする。拘置所でね。お母さんは私にこう言ったんだ。
「あなたが悪いわけじゃない」。それから、「あなたの人生を返す」って。「薬物依存は病気なんだよ」とも言ってたと思う。
執行猶予で出てくると、弁護士が「ひとりでいると、また同じことをくり返すからね」ってことで、ある自助グループを紹介してくれた。私は早くお金がかせぎたかったし、そのためには、こんどはほんとうにクスリやめなきゃ、って思って、言われるがままにグループに入ることにしたんだけれど、ちょっとショックなできごとがあって、またクスリを使ってしまったの。でも、こんどはぜんぜんラクにならなかった。なにも変わらなかった。それが9年前のこと。そして私は、ようやくみずから、ハウスにつながったんだ。