非日常的なエンタメ性で
高級化に成功した「GENEI.WAGAN」

 高価格化と高級化は似ているようでまったく違う。値上げの結果として、ラーメン1杯2000円になったら高価格化だ。しかし、2000円を妥当と思わせる仕掛けや物語があれば、それは高級化と言える。

 株式会社凛/株式会社GENEI JAPAN社長の入江瑛起氏は「GENEI.WAGAN」で会員制ラーメン会席という型破りの挑戦を続けてきた。

「15年ぐらい前ですね、これからどうしようかと考えたんですよ」

 このままラーメン屋という業態を続けても難しいだろうと思っていたという。

「行く先は絶対に人手不足になるし、何か考えなきゃいけない」

 当時、入江氏は高級店から格安店まで年間730軒も食べ歩いた。

「メモしていたんですが、200軒近くはリピートだったんです。なんでリピートしているんだ?と思いまして、気づいたのがおいしさ以外の点でした」

 おいしいのは当たり前、リピートする店にはエンタメ性とコミュニティ性、ストーリー性があると入江氏。

「じゃあラーメン屋さんのストーリー性ってなんだ?仲間で飲み行くと1軒目は寿司屋かフレンチで静かに飲んで、2軒目でバーに行って、その後にエンジンかかって女の子のいるスナックなんかに行って、でも結局、最後のラーメン屋で一番話をする。ところが、最初から最後まで、一軒ですべてまかなえるような店ってあんまりないなと思いまして」

 もうひとつ、入江氏がこだわったのが非日常性だ。

「昨日着けたネクタイは何色だったか、とか、一昨日の昼に何を食べたかって、案外覚えていないですよね。一方、数年前に行った旅行でも、その日の服装や何を食べてどこへ行ったかなど、事細かに覚えていたりします。日常は消化することに目的があって、記憶に残らない。だから非日常のスイッチを入れて記憶に残る店にならないと、リピートされる店にはならないということです」

「GENEI.WAGAN」はビルの地下にある。薄暗い階段を下り、ドアのインターホンを鳴らして入店するという、まるで禁酒法時代の「もぐり酒場」のようないかがわしい演出がなされている。日常から非日常への切り替えのための緊張を持たせた演出だ。

「店の中に入ってもまだ暗いんです。緊張する中で店の人にやさしい声をかけられると、急にほぐれて安心します」

 料理はコース仕立てで提供されるが、コースの締めのラーメンは来店回数によって変わる設定になっている。

「1回目は潮薫醤油ラーメン、2回目は海老薫醤油ラーメン、と毎回違うラーメンが出ます。一番ご来店いただいているお客様は380種類以上お召し上がりいただいていますし、これまでに1600種類以上作っていますね」

 入江氏の目論見は大成功し、1000円の壁どころか1万円の壁をやすやすと突破、政治家から芸能人、経営者まで多くの富裕層が毎月のように訪れる店として、ヒットを続けている。

「ラーメン屋は高級化に失敗したんです。そば屋も焼き鳥屋も寿司屋も、1人1万円払っておかしいと思わない。ラーメンだけですよ、1杯1000円で客が離れるのは」

 チェーン店でのロードサイドの薄利多売か高級店か、ラーメンは二極化しつつある。

鴨と松茸の醤油ラーメン「GENEI.WAGAN」の「鴨と松茸の醤油ラーメン」は10回以上通わないと出てこないスペシャルメニュー(写真:GENEI.WAGAN提供)