調査件数と追徴税額を押し上げたもう一つの要因

 では、「追徴税額」の増加と「AI活用の効果」には、どの程度の関連性があるのだろうか。上の表にある調査件数と非違割合、および追徴税額から読み解いてみよう。まず、表中「調査別」の欄は、「特別・一般」「着眼」「簡易な接触」に分類されている。

「特別・一般」および「着眼」は、いわゆる税務当局が「実地で行う税務調査」である。「特別調査」は、特別国税調査官が行う調査であり、単に高額な非違が見込まれる案件だけでなく、悪質な不正計算や、重加算税を賦課できそうな案件に対して実施する。「一般調査」は、通常の税務調査と考えていただきたい。「着眼調査」は、税目などを絞って行う調査で、その税目だけを徹底的に調べ上げる。

 聞きなれないのが「簡易な接触」だと思うが、基本的には電話などでの“指導”と考えればよいだろう。これらの調査の内容は、実際にはさらに細かく分けられており、別途機会があれば詳しく解説したい。

 コロナ禍前の19年度は、「特別調査」「一般調査」を併せた実施件数が4万2601件、追徴税額は947億円だった。これに対し、コロナ禍明けの23年度は、同3万7092件で1019億円。AIによる調査案件の絞り込みによって、“効率的な”訪問調査が行われたものと考えられる。

 ここでもう一つ、「簡易な接触」の件数が大幅に伸びている点に注目したい。19年度の「簡易な接触」の件数は37万1812件だった。これが22年度は59万1517件、23年度は55万7549件と大幅に増加している。それに伴い、22年・23年度の「実地調査」全体の件数合計は60万件台にまで押し上げられた。

 AIで税務調査の対象を精査する過程で、訪問調査をするまでもない案件の選別が容易になった。悪意のない申告の誤りと考えられる案件は、税務当局としもできる限り指導だけで済ませたい。非違割合こそ50%台程度で推移しているものの、23年度の「簡易な接触」による追徴税額は19年度の約2.4倍。調査実績に「簡易な接触」の実績を含めたことが、23年度の追徴税額を「過去最多」にした要因の一つと言ってよいだろう。