「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。
流行りのスキルや知識に時間資本を投下するのは「絶対劣位の戦略」
人生で何に時間を多く投下すると、「最も長く役立つ」のでしょうか?
昨今、このような問いに対しては「将来、役に立つのは○○の知識」といった提案や予測がそこかしこに氾濫していますが、これらの提案を丸呑みするのは2つの点で大きな問題があります。
ひとつ目の問題は、これらの予測はほとんど当たらないということです。
「テクノロジーに関する未来予測は当たった試しがない」というポール・グレアムの言葉がありますが、ことはテクノロジーの領域に限ったことではありません。過去の経済予測や人口予測がほとんど外れていることを考えれば、そもそも「予測は当たらない」と考えた方がいいのです。
2つ目の問題は、仮に予測が当たったとしても、「需要と供給」の関係から、そのような知識やスキルの供給量は増加し、労働市場における価値が減少するため、当初想定されたNPV(正味現在価値)よりも大きくディスカウントされることになる可能性があるからです。
つまり、これらの予測に踊らされて時間資本の配分を左右するというのは、戦略としては本書で説明した「絶対優位の戦略」の真逆、「絶対劣位の戦略」ということになるのです。
最もリターンの期間が長いのがリベラルアーツ
未来が予測できないのであれば、何が将来にわたって長く役立つものなのか、を事前に把握することも不可能なように思えますが、ひとつだけ確実に言えることがあります。それは、私たち人間にとって、長らく有効であったものほど、将来にわたって長らく有効なものである確率が高い、ということです。
このように考えると、人類が残してきた「古典」や「名作」と呼ばれるもの、いわゆるリベラルアーツに親しむことが、実はもっともNPVの大きい時間資本の使い方だということです。
だからこそ、欧米のエリート校はリベラルアーツ教育を非常に重視するのです。
この点についてはすでに拙著『武器になる哲学』でも紹介しましたが、経営者教育の世界で名高い米国のアスペン研究所では、世界で最も時給の高い人々であるグローバル企業の経営者を集め、アリストテレスをはじめとした哲学や文学の古典を学んでいます。
利得の計算に長けた彼らが非常に大きな機会費用を払いながらリベラルアーツを学んでいる理由は明白です。なぜなら「それがNPVの大きい投資だから」です。