「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

「支配する」のではなく「支援する」

 30~40代の「人生の夏」から50~60代の「人生の秋」以降とでは、社会や組織との関わり方は大きく変わります。本節では「サーバントリーダーシップ」のコンセプトを紹介しながら、この「人生の夏」から「人生の秋」にかけての転機をどう乗り越え、人生の後半を豊かにするかという点について考えてみましょう。

 サーバントリーダーシップは、もともとは米国の研究者、ロバート・グリーンリーフによって提唱された概念です。グリーンリーフはキャリアのほとんどを通信会社AT&Tで過ごしながら、在野の研究者としてマネジメントとリーダーシップに関する考察を深め、それまで米国で優勢だった「支配型リーダーシップ」が有効に機能しない時代がやってくることを指摘し、権力に頼らない「支援的なリーダーシップ」としてサーバントリーダーシップという概念を提唱しました。

 グリーンリーフの提唱したコンセプトは現在でも高く評価されており、例えば「学習する組織=ラーニングオーガニゼーション」研究の第一人者であるピーター・センゲは、グリーンリーフの著書『サーバントリーダーシップ』を「リーダーシップを本気で学ぶ人が読むべきものはただ一冊、本書だけだ」と評しています。

 ここではまず、具体的に「支配型リーダーシップ」と「サーバントリーダーシップ」の違いについて確認しましょう。

 図は、支配型リーダーシップとサーバントリーダーシップの違いについて比較したものです。

 両者をこのように対比すれば、あからさまに「支配型リーダーシップは悪い」、「サーバントリーダーシップは良い」とされているように見えますが、別にグリーンリーフも全面的に支配型リーダーシップのスタイルを否定しているわけではありません。

 ある特定の状況や文脈においては支配型リーダーシップの方が有効に機能することはグリーンリーフも認めています。典型的には、現場の第一線で、プレイヤーとしても第一級のスキルや知識を持っているリーダーが、特に緊急性の高いタフなタスクにチームで関わるような場合です。

 しかし、これを逆に言えば、このような特殊な状況が継続的に発生するような職業でもない限り、支配型リーダーシップは「現場の第一線で働いている」という、キャリアのごく一時期においてのみ有効なものでしかない、ということでもあります。

支配型リーダーシップは持続可能ではない

 支配型リーダーシップの最大の問題は、このスタイルが「長期的に持続可能ではない」ということです。具体的には「30~40代の人生の夏」から「50~60代の人生の秋」への移行に伴って発生する組織的・身体的な変化によって、多くの場合、支配型リーダーシップのスタイルは機能不全に陥るのです。

 特に、現在のように環境変化が激しく、過去の業務経験で培った知識が数年で時代遅れになってしまうような時代において、いつまでも「昔とった杵柄」に頼って支配型リーダーシップを発揮しようとすれば、組織、部下には大きなストレスがかかることになります。

 現場の実情や市場の競争状況と乖離した過去の知識や経験をもとにして独善的に指示するばかりで、現場からの声を傾聴することがなければ、やがてその組織の士気はこれ以上ないほどに停滞し、組織メンバーは「なにを言ってもムダだ」という無気力状態に陥ることになるでしょう。

 どんなに「現場の第一線」で活躍し、大きな業績を残した人であっても、キャリアのどこかで支配型リーダーシップを手放さなければならなくなる時がやってきます。

 支配型リーダーシップとサーバントリーダーシップの関係は「どちらが優れているか?」という優劣の問題ではなく、「いつシフトするか?」というタイミングの問題として捉えるべきなのです。